お題
□16・好きならそう言ってよ(クン美奈)
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プライドが高くて、私にすらあまり弱味を見せない彼が怖いと言う。
気持ちを言えない理由がその弱い部分にあるなら、なかなか話せなかったのも分かる気がした。
でも私は受け止めたい。
彼の強いところも、弱いところも。
「うん。」
静かに相槌を打つと、頬を撫でてくれたその手を今度は私がそっと握る。
「それって…もしかして前世のことと関係してる?」
「どうして…」
分かるんだ?という言葉が聞こえてきそうなその表情に私は僅かに頬を緩ませる。
「分かるわよ。だって、似た者同士でしょ?私達。」
「そうか。そうだったな…。」
彼もまた弱々しく微笑んで話を続けた。
「あの頃は、口が裂けても、本当の気持ちなんて言えなかった。言ったら自分の守ってきた立場も、お前のことも失ってしまうって分かっていたから。だから…」
「だから怖くて言えなかったのよね?」
私の続けた言葉に頷く賢人は、なんだかいつもより素直な普通の青年に見えた。
「ちょっと歩かないか?」
「うん。歩こうか。」
先を歩く彼を追って、ポケットに手を入れている腕に自分の手を掛けた。
「あの頃の自分の想いが今の俺に重なることがある。俺はもうクンツァイトではなくて北崎賢人として生きている。
だが、結局何もかもを守れなくて傷付けて死んだ前世の業みたいなものが今の俺に降りかかってくるような気がして仕方がなくなることがあるんだ。」
賢人の気持ちが痛いほど伝わって私の胸の一番深い部分がズキンと疼いた。
それは前世のヴィーナスとしての心だったり、恋をして臆病になる弱い部分だったりするのかもしれない。
私も同じ思いを抱えたことがあったから。
でも…
「俺は、こうしてお前と肩を並べて歩けるだけで…。そのうえ気持ちまで伝えたら、本当に何もかも無くなって終わってしまうような気がしたんだ。だから今まで言えなかった。
笑いたければ笑え。結果的にこんなに俺の弱い部分が、美奈子を傷付けてしまった。責めたいだけ責めていいんだぞ?お前にはその権利がある。」
「笑わない。責めたりなんか…しない。それに、権利って何よ。私はただあんたが好きなだけ。」
腕に添えていた手にグッと力を込める。
初めて聞けた彼が恐れていたもの。それを全部吹っ飛ばしてあげたくて、そのまま身を翻して無防備な賢人の唇に自分のを合わせた。
「美奈…」
「好きよ。」
驚いて呼び掛けてくる彼を遮ってもう一度はっきりと気持ちを伝える。
そして再びキスをした。
今度は首に腕を回して。初めはそんな奇襲に呆然としていた彼も、最後には降伏して抱き締めてくれた。
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