お題
□3・絶対的に君が足りない(まもうさ)
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うさがいない期間、ここぞとばかり賢人たちが家に出入りするようになった。
晃にバイクでツーリングを誘われたり、要に彼のピアノのミニコンサートに招待されたりもした。
だからなんだかんだで夏休みを楽しんでいたのだけれどやはり夜になると寂しさが募る。
今夜も一人ベッドに寝転び意味もなく寝返りを数回打つ。
うさはこんな気持ちだったのだろうか。俺が留学に行っている一年間…。
勿論俺だって寂しかったけれど、新しい環境の中で日々追われる学業の忙しさ、夢に近づける楽しさがあったからやってこれた。
だけど残された方は―――――
同じ場所、同じ景色、同じ空気。
それなのに大切な一人が絶対的に欠けている。
他の何もかもが変わらない。だからこそ恋人の存在が寂しさと共に浮き彫りにされるのだろう。
こんな想いを一年間もさせてたかと思うと仕方が無かったこととはいえ若干の後悔が胸に広がった。
そしてそれに引き換え自分はまだ数日なのにこの状態という有様が情けなかった。
枕に顔を埋めると、昨日の国際電話でのうさとの会話が思い出される。
絵葉書は約束どおり送られてきたけれど、声を聞くのは二週間ぶりだった。
久しぶりに聞く彼女の声は元気そのもので、フランスのお菓子とイタリアのジェラートが美味しかったとやはり食べ物の話ばかりで苦笑した。
世界遺産はどうだったかと聞けば、ヴェルサイユ宮殿は広くて迷子になったとか真実の口は怖くて手を入れられなかったとか
…なんともうさらしい答えが返ってきた。
「楽しそうで良かったよ。」
『うん!!』
電話の向こうの彼女は本当に元気だ。何万キロも離れた場所にいるなんて信じられないくらい近くに聞こえる。
思っていたより彼女が寂しがっていないことに安堵したけれど、その分俺が寂しくなった。
「いつ帰ってくる…?」
『え?…あと3日だよ。えっと…行く前にも言ったよね…?』
「そうか。」
『まもちゃん?』
呼ばれてはっと気付いた俺は、自分の気持ちを彼女に感付かれないように電話料金を心配するフリをする。
そしてそのあとは早々に受話器を置いた。
「うさ…会いたい…。」
本音が零れたのは誰もいない暗くて静かな部屋。
何もかもが揃っていて決定的な存在が欠けたこの部屋だった――――――
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