お題
□17・あなたの隣が特等席(ゾイ亜美)
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西園寺さんの家はフランスにあるような素敵な邸宅だ。
ピアノが置いてある彼の自室は天井が高くてサロンのようになっていて、内容豊富な壁一面の本棚とゆったりしたソファーにガラスのローテーブル。
窓から吹き抜ける優しい風によって部屋のローズの香りが漂えば、格調高くて緊張してしまう空間がほっとできる場所へと変わってしまう。
私はこの場所で彼のピアノを聴くのが好きだ。
自分が、他人が用意した空間でこんなにも落ち着けるのかということが不思議で…嬉しかった。
「あら、なんでそこに座ってるの?」
楽譜を用意していた彼が、ソファーに腰掛けている私を見るなりそう言った。
「え…だって…」
前みたいにピアノを弾く彼の横に座っていたら安心して眠ってしまうかもしれないから…。
言いたくても恥ずかしくて言えない言葉を飲み込んで頬を染める。
「あなたの席はここ。」
優しく腕を引かれてピアノの前に置かれた二脚の椅子のうちの小さな方に座らされた。
「あ、でも…」
「この席は亜美だけの場所だから。」
隣の椅子に座ってそう言う彼は嬉しそうに微笑む。
そして前に向き直して真剣な眼差しで譜面を見る。
どうしよう…
嬉しい
いつもよりなんだか優しいことも嬉しいのだけれど…
それだけじゃなくて
私もそう思っていたから
あなたの隣の席に座るのは、いつでも私であればいいのにって…思っていたから
あなたも同じように思っていてくれていたことがすごく…嬉しいの
私はたったこれだけのことで泣きそうになるのをぐっと堪えて、始まった美しいメロディーの世界に身を委ねて行く。
そして大好きなピアノを弾く彼の横顔を見て、そっと瞳を閉じた。
おわり