お題
□16・好きならそう言ってよ(クン美奈)
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前世。あの頃の私たちにとっての一番は、お互いではなかった。
果たすべき使命。守るべき大切な存在がいたから。
だけどね。
あの頃の私は、それでもやっぱりどうしても貴方が好きだった。
前世の死に際…最期に想ったのは貴方の温かくて大きな手だったの。
それに触れたくて腕を伸ばしたけれど、ただ空を切るだけで、重力に逆らうこともなくそれは虚しく落ちていった。
いつもいつまでもプリンセスのことを思っていたはずだったのに…こんなにも自分はただの女なんだってことを思い知らされて、そんな自分に呆れて笑って…泣いたんだ。
それが最期の記憶。
誰にも言えない、胸の中にしまっておいた最後の想い。
転生後、ダークキングダムの戦いを終えて、もう会うこともないのだと思っていた彼に再び巡り会えたのは本当に奇跡で。
意地を張っていた心を結局最後は貴方の温もりが溶かしてくれた。
抱きしめられて、美奈子って呼ばれて。
それだけで互いの心が繋がった気がしたの。
私は言ったわ。貴方の胸の中で、自分の気持ちを。
それから私達は初めて、肩を並べて歩けるようになった。
ずっと、長いこと、叶うはずもないと思っていた恋人同士に…なれたの。
だけど…
貴方は言わない。
私に自分の気持ちを言ったことがない。
そういうことを何度も言うような人でもないことは分かっていた。
きっとそのうち何でも無いような顔をしてポロっと、挨拶みたいに言ってくれるんじゃないかとも思った。
でも、もしかしたらそうじゃないのかもしれないとも思う。
前世からの因縁みたいなものを感じてただ一緒にいてくれているだけかもしれない…なんて思う。
そんなこと無いってすぐに否定してみるけれど、不安なの。
たった一言貰った事があるか、無いかでは全然違うの。
普段の私の性格がいくらサバサバしていたとしても、心の中はその辺の恋する乙女と何も変わらないんだから。
こんなにも貴方の一言を待っている一人の女の子なの。
だから…お願い。
好きならそう言ってよ。
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