短編D
□その贈り物、凶暴につき。
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「うさぎちゃん!お誕生日おめでとう!!」
「ありがとうみんな!」
パーラークラウンで特製バースデーケーキとごちそうを前にして仲間たちは笑顔でうさぎを囲み誕生日を祝っていた。
「私からはこれようさぎちゃん。『誰もが勉強とお友達』。今年上半期のベストセラーなの。ぜひ読んでみて?」
「あ…ありがとー亜美ちゃん。」
今年で何冊目になるだろうか。猿でも簡単問題集、ズバリ数学一年生、AIに負けるな人類脳などなど。タイトルからして一筋縄ではいかない天才少女からの贈り物。ちなみに衛に貸せばどれも太鼓判を押されるし、面白い図説も付いているのでそこだけはうさぎも楽しみにしていた。
「私からはこれ。もう高3なんだし、たまにはリップじゃないのも付けてみたら?」
「わー可愛い!ピンクのルージュだ。ありがとうレイちゃん!」
さっそくラッピングされた透明の包みと箱を開けてみるうさぎは、嬉しそうに声を上げる。蓋はシンプルな黒だが持ち手の部分はシルバーでハートをモチーフにした可愛らしい装飾が施されている。持ち運ぶだけでもワクワクしそうなそれはうさぎの顔を輝かせた。その表情を横で頬を緩めて見守るレイ。
うさぎはいそいそと手鏡を取り出しルージュを引くと、どうかな?とそんなレイに屈託のない愛らしい笑顔で聞いた。
「そうね。ましになったんじゃない?」
ふいと視線を逸らして答えるレイに美奈子がにやにやと近づく。
「その色、うさぎにすっごい似合ってるわよ!レイちゃんてば分かってるう♪」
「へへへ」
肩をバシッと叩いてくる美奈子の言葉にまたあんたは!とどやすレイだったが、嬉しそうにエンジェルスマイルを浮かべるうさぎの様子を見れば黙ってしまい、それは姫への思いの深さを物語っていた。もちろん当の本人は気付かず、他の3人がレイの気持ちに心の中でしみじみ頷き共有するのであった。
「私からはこれだようさぎちゃん。色々試したんだけど、うさぎちゃんにはこの香りかなって。」
「香水?!お月様の形だ。可愛い小瓶〜!」
三日月の形をしたピンクの小瓶に入った香水は見た目もうさぎにぴったりだった。
「付けてみるんだったら、試しに手首に少し吹きかけてこすってみるといいよ。」
「うん!やってみる!」
その間にも、亜美が本は私が預かるわ。とうさぎから受け取ったり、レイがプレゼントを開けた包みを丁寧に畳んでまとめたり、あ!その前にルージュ記念に一枚撮るわよー!と美奈子が写真を撮ったり。
プリンセスを囲む四人は本人たちが気付いているのか定かではないがうさぎに対してベタ甘だった。
「わ…あ!いい香り…!」
きつすぎない甘いローズの香りにうっとりするうさぎに美奈子が堪らず飛びついた。
「やっだうさぎ!食べちゃいたーい!」
うさぎを抱き締めて首筋にぐりぐりと額をくっつける美奈子に目を丸くする。
「美奈Pってば!急にどーしたの!?」
「まーもちゃんにあげたくないーっ!!」
「えっ!?」
「こらこら美奈。やめなって。」
引っ付き虫の守護リーダーに苦笑するまことは、まあ気持ちは分からないでもないけどさ。と思いながらも赤い顔をして困っているうさぎの助太刀をする。
「そうよ美奈。で?あんたのプレゼントは?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
恐ろしい切り替えの早さでしゅっと立ち上がり紙袋を高々と掲げる美奈子は紅潮した頬で声を張った。
しかし。あーでもなーこれあげると喜ぶのは誰かって言ったらそれはなー…と一人ぶつぶつ言い始めて先に続かない。
「美奈P?」
少し不安を覗かせたうさぎに美奈子はぐっと奥歯を噛む。
あああ何てこと!私はうさぎにこんな顔させたかったんじゃないのよ!このプレゼントを選んだのも、ちょっとからかって真っ赤にさせてからそれでも最後にはありがとーって可愛く笑ってくれるあんたが見たかっただけなのよっ!プリンセススマーイル!プライスレス!!
という心の声が全て口に出ていたことに気付かない美奈子はその紙袋を差し出すと、
「はいうさぎ!愛の女神様からのラーブラブ♡ランジェリーよ♪♪」
ウインクしながらアイドル顔負けの可愛さでそう言った。
けれど怒涛の展開に付いていけていなかった無反応のうさぎに、それならば!と使命感に燃える美奈子。
「じゃじゃーん!セクシーーダイナマイトッ!!」
中身を明るい店内でぴらーんと広げてそれを見せれば、遅れてうさぎの悲鳴とレイの怒声が穏やかだったはずの店内に鳴り響く。
慌てたまことがランジェリーを一瞬で袋に戻し、亜美は真っ赤になって参考書を読み始めた。逆さになっていることにも気づかずに。
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