お題

□12.奪いたい
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幸福な夢を見た。



たくさんの人々の笑顔に囲まれて永遠の愛を誓う婚儀の夢。俺は夢の中の俺たちを見下ろしていて、彼女もその横にいる自分もこの上なく幸せそうに笑い合っていた。
皆が祝福の言葉を掛け、彼等から放たれた花びらが舞っている。彼女はとても可憐で美しく笑んでそれらを受け、隣の自分の腕に手を添えて頭を預けていた。

夢だとは分かっている。けれどまだもう少しこのまま見続けていたい。この瞬間は現実の世界では決して迎えることのできないもの、気の遠くなるほど幸福な、幻なのだから。




目が覚めると隣には当然誰もいない。窓の向こうの空は夜明けの色をしていた。美しいのに寂しい色に見えてしまうのは、きっと俺の心の半分は君の心の中に預けてきてしまったから。

ベッドから降りて窓辺に立つ。

「おはよう、セレニティ。」

月は見えない。君もいない。けれどもその星があるはずの方角を見下ろしてそうやって朝を迎えているだなんて、君が知ったらなんて言うのだろうね。
悲しい瞳がすぐに浮かぶから、一生それを尋ねることは無いと決めているけれど。





「す…ごーいっ!」

「気に入った?」

「もちろん!このお花、なんていうの??」

「これはシロツメ草だよ。ほら、この前君が言っていたクローバーの花なんだ。」

「本当だわ!これだけたくさん咲いてたら四つ葉も見つかるかもしれないわね!」

「そうだね。」

今日は一面がクローバーで敷き詰められているような小高い野原にセレニティを連れてきていた。
喜んでくれて良かったと胸をなで下ろす。白い小さな花とクローバーに囲まれた彼女は夢の中で見たよりもずっと綺麗で可愛くて。見ているだけでも心が満たされていく。心も体も君といると嬉しそうに呼吸するんだ。


四つ葉のクローバーを探すのかと思っていたが、彼女は白い花を摘んで真剣に何かを作り始めたようだった。
近くに行って「何してるの?」と彼女の隣にかがむと、「エンディミオン!もう少しお花を摘んでもらえるかしら?」と頼まれた。

「違うお花で前にジュピターに教えてもらったの。」

そう言いながら俺の摘んだ花をありがとうと受け取って茎を器用に編み込んでいく。その白い細い指から生み出されていくものを見つめていると彼女が何を作ろうとしているのかが分かり、胸の奥がぎゅっと音を立てたように感じた。

「できた…!」

「被せてあげるよ。」

「ありがとう!」

目を細める彼女に白い花の冠をそっと被せる。

けれどそれを見た瞬間に夢の中の白い花の付いたヴェールを被って笑う花嫁姿の彼女が浮かんで体の奥が痛いくらいに震えて熱くなって。俺は力強く愛しい彼女を抱きしめた。

「エンディミオン?どうしたの?」

「なんでも、ないよ。ちょっとだけ…こうさせてくれ。」

きつく抱きしめられて少し苦しげに驚いたように聞いてくる彼女。腰と肩に回した手は緩めることはできずにそう返す。

「セレニティ」

奪いたい

君のことを何もかもから

「好きだよ」

奪いたい

君のこと総て

その吐息すらも

「大好きだ。」

奪えたら、良かったのに



しばらくそうして腕を解くとセレニティを見つめる。不意に彼女の手が伸びて俺の頬を包み、唇が重なる。

セレニティからの口付けは初めてで、心臓が馬鹿みたいに騒いだ。
痛かった部分が解れていく。

唇が離れ、上目遣いで赤い顔をしたセレニティは柔らかく笑う。

俺もその表情につられるように笑った。

「良かった。効いたわね、笑顔になれるおまじない。」

ふふっと恥ずかしそうに笑いながらそう言う彼女は俺の心と体を信じられないほど温かくしていく。

「愛してるよ。」

もう一度抱き締めて誓う。

夢の中とは形は違うけれど、全てを奪うことはできないけれど。

それでも今ここで君に、永遠の愛を。




fin.

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