お題

□06.視線
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※唐突に化学教師×生徒パロ
付き合ってない





中間の化学がおっそろしく悪かったあたしは、赤点補習→個人指導をみっちり受け、そして絶対落とせない今回の期末に臨んでいた。

待ってなさいよー!意地でもあいつの鼻の穴をあかしてやんだから!!



『ねえせんせー。今度の期末で点が良かったらデートしない?』

『…無駄なことを考えていないで目の前の問題に頭を使え。』

あたしの一世一代の勇気もけんもほろろの化学教師にかちんときた。

『こんな若くてかーわいい女子高生がデートを申し込んでんのよ!?普通だったらラッキー!とか浮かれるところじゃないの!?』

『俺は愛野をそういう風に見た事がないからな。』

恋愛対象外ってこと?そんなことは分かってるっつーの!でも諦めてたまるもんか!あたしはもっとせんせーのことが知りたいし、せんせーにもあたしのことを知ってほしいって思ってる。だから絶対何が何でもデートさせてやるんだから!!!

『じゃあ見て。愛野美奈子をもっと見てよ。教師も生徒も関係なく、デートしてよせんせー。』

声が震えながらも精一杯挑戦的に迫る。けれど表情一つ変えずに、あたしが終えた問題のチェックをするせんせーは、赤ペンを走らせながらぼそりと言った。

『…初めから、生徒としてのお前など見たことが無いと言っているんだが。』

『は?』

…って、え?ちょっと待った。この化学教師は一体なにを…

頭の中が整理できないままフリーズしていると、せんせーの顔がふと上がる。

その一見して冷たい視線は、それでも奥に熱を持ったようにあたしの胸を一瞬で貫いた。

『せ…んせ?』

真っ赤なあたしを置き去りに、ふっと表情がいつもの鉄面皮に戻ってチェックを再開させたせんせーは『何点取るつもりだ?』とまるで事務報告を尋ねるみたいに聞いてくる。

『え、えっと…60点…?』

『愛野にとっていい点とはその程度か?それで俺にデートを申し込めると思っていたとはな。』

『な、なによ!赤ばっかだったあたしが急にそんなに高得点狙えるわけ無いじゃない!』

『ふざけるな。この俺がこんなに時間を割いてやってるのにそれしか取れないようじゃ話にならん。お前の交換条件以前の問題だ。』

『じゃ、じゃあ70点!』

『………』

『…わかった。わかりましたっ!!85点!85点以上取ってやるわよっっ!!どう!?これで文句ないでしょ!!??』

涙目だ。こんなの取れたら本当にキセキだけど、そのキセキをなんとしてでも起こさなきゃこいつは絶対あたしになんて興味の1ミリも向けやしない。

『もう少し欲しいところだが…今回はそれで及第点としよう。』

『言ったわね!?絶対取ってやるんだから!』

『無駄口はそこまでにして早く次の問題を解け。』

『はいはい了解でございますっ北崎賢人大先生様!!』






そう。あたしはなんとしてでもこのテスト、85点というミラクルな数字を取らなくちゃいけない。

メラメラと闘志を燃やして問題の中盤に差し掛かったときだった。

教室の前のドアをノックする音と開く音に目を向ける。

!!

そこには紛れも無くこのテストを作った張本人がいて、試験官の先生に軽く会釈すると無駄の無い動きで教壇に立った。

「一つ訂正箇所を伝える。問5の…」

せんせーはいつものよく通る低い声で問題文の訂正を淡々と述べると、「ああそれから…」と言葉を続けた。不敵な笑みまで浮かべて。

「このクラスの平均点は、前回の中間よりも上がるらしいから楽しみにしているぞ。」

ざわっ

化学教師、北崎らしからぬ言葉にざわつく教室内。

こいつ…っなんつープレッシャーを…っっ

キイっっと睨むと視線がこっちに真っ直ぐ向かってきた。

「…っっ!」

慌ててテスト問題に再び取り掛かる。

だって。



その眼差しが、あまりにも…あったかかったから。



その表情は、教師じゃない彼自身のものだと、分かってしまったから。


なによ…っずるい!そんな顔!!このバカ学教師!!!



特別を一つ知ってしまったあたしは、やっぱりもっともっとせんせーのことが知りたくなって。前よりもなにがなんでもデートしたくなって。

とにかくテストに滅茶苦茶集中するしかなかった。







2015.5.27

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