お題
□05.不意打ち
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※衛の大学の友人土屋貴士(オリキャラ)視点
衛大学四年、うさぎ短大一年辺り?
誰も知らないだろうけど、俺は気分転換やリラックスしたいときはよく『ひとり水族館』に洒落込む。休日は混んでるからこうして休講が重なって時間が空いた平日に限るが。
この水族館メインの巨大水槽の前なら、見てるだけで平気で二時間はいける。
そうやってまったりしている時だった。
「うっわあ!!まもちゃん!!早く早くっ!すっごいきれいだよー!!」
大きな声だけど、まるで鈴が転がるみたいに透き通ったように聴こえるからうるさくは無い。俺はこの声を知っている。となればもう一人は…
「こらこら、引っ張るなって。」
はい来た。当然この声も知っている。知っているが明らかにいつもと違って全体的になんというか…柔らかい。
要するにいつもの、白か黒かで言えば白王子『彼女限定・あんこと蜂蜜に砂糖ぶっかけたモードの衛』だ。モード・ブラックも面白いができれば避けたい。がしかし、モード・ホワイト…否、ピンクはこれはこれでなかなかに衝撃が強いからある程度の距離は保ちたいのも本音だ。まあ俺としては、それでも面白いから万事オッケーなんだけど。
水族館は全体的に照明が暗いのも手伝い、二人は俺には気付かず、俺からは少し離れたところで悠々と泳ぐ大小様々の色とりどりの魚達を見上げていた。
そして不可避の彼らの会話を聞いてしまう俺なのである。
「すごいね!あ!カクレクマノミだ♪」
「お、よく知ってるな。」
「アニメで観たんだもーん!」
「ははっうさらしいな。」
「なによー!」
「じゃあ、これは?物知り博士さん。」
「簡単簡単♪ドリーでしょ!?」
「残念でした月野博士。それはアニメの名前で、正解はナンヨウハギです。」
「えー!?ドリーはドリーだもんっ!」
「はいはい。」
「もおまもちゃんのイジワル!」
「こらこらぶつんじゃありません、博士。」
「ふにゃっ」
………ほーらな。超ド級バカップル万歳。ちょっと聞こえてきただけなのになんかもう酸欠っす。
うさぎちゃんのほっぺたをつまんだ衛はとても楽しそうに笑ってる。じたばたしてるうさぎちゃんも本当に可愛らしい。
はあ君たちね、いくら人気も無くて薄暗い場所だからって憚らなさすぎだからね、ホント。
まあクエを観てるフリして当の二人を見てしまう俺も端から見れば駄目人間…か?いやいやあんな目立つ二人があんな世界繰り広げられちゃ見るなという方が無理だよな?そうだよな!
「あ、ほら、うさあれ観てごらん?」
「え、どれどれ…っ!?///」
「っちょ、うお、うえ!!??」
…最後の声は俺である。
衛に言われて探そうとするうさぎちゃんの肩を引き寄せて重なる唇。そんな衛からの不意のキスに心の準備ができてなかった俺はとにかく素っ頓狂な声を上げてしまったのである。
水族館の青い光と色鮮やかな魚達が二人のその様を縁取るように、まるで絵画のようになっていて妙な感動すら覚える。
この二人は呼吸困難を覚悟でいれば、本当に見てて飽きない。
「貴士?」
「へ、ひゃっ土屋さん!?////」
俺の声に弾かれたように顔を離してこちらを見る、気まずそうな衛に真っ赤なうさぎちゃん。
「いやー、あははは。」
そして意味も無く笑って手を振るしかない俺。
(水族館は当分行くのは控えよう)
そんな決意をなんとなく互いに感じ取った俺と衛なのであった。
2015.5.26