短編C

□お酒にまつわるエトセトラ2(まもうさ)
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※衛大学四年、うさぎ短大一年設定。





俺。土屋貴士。KO大学四年の貧乏医学生。
友人の地場衛は相変わらずクールなエリートだが、恋人にかける愛情は俺の知り合いの中では右に出るものがいないほど深い。おそらくこの大学でそのことを知っているのは俺くらいだろう。
自分のことはあまり話さない衛。けれど俺には一番心を砕いてくれているという自負がある。

彼がこっそり手帳の中に自分と彼女の実に仲睦まじい写真を忍ばせて一人(と思っている)の時に柔らかーな笑顔で見つめているのを知っているくらいには親しい。しかしこれは奴には黙っておこう。

そんな友人と、仲のよろしすぎる恋人二人のことを考えたら、今のこの状況は非常に申し訳ないことくらい分かっている。

しかし、だ。厳しい医学の道を進み、下手したら勉強のみに埋もれる日常の中。心許せる恋人が欲しいと思うのは20歳そこらの男の願望としては当然のことだと思う。

俺自身の名誉のために言っておくが、今まで恋人がいなかったわけじゃない。ただそのどの子とも長続きしなかっただけだ。

そう。ここは居酒屋。大学生ならどんな人間でも一度は出たことがあるであろう『合コン』の席に俺と衛、そしてゼミのメンバーが、他学部の女子と共に座っていた。

今度は念の為に言っておく。衛を何とか合コンに参加させようと説き伏せるゼミの奴らを俺は止めた。衛には大事な大事な恋人がいるからと。しかし奴らの猛攻は凄まじい物があったのだ。

『人数が合わないんだから強制参加!』これはまだいい。

『地場だけいい思いしてんのは許さん俺達に協力して然るべき』これは一理あるのか無いのか。

『お前の会費は俺らが持つから!』お前らそんなに必死か。

さすがにそこまで言われて衛も同情したのだろう。「一杯飲んだら帰るからな。」と渋々了承したのだった。



開始30分。やはりというか何と言うか。女達の視線と質問は衛に集中していた。まあそうだろう。見た目王子だし。頭脳も運動神経も性格も折り紙つきだからな。
案の定、ゼミの奴らはそんな事態にじりじりしていた。全く勝手な奴らだ。こうなることも分かってたから俺は止めたんだぞ。

しかしそんな彼女たちの質問にも衛は実に爽やかにスルーして微笑を返すだけだった。

いや、この場合、その微笑みすら彼女たちにとってはやばいんだろうが。

彼女らを見るとやはりポーっと頬を染めている。


解せぬ。ここにもいい男がいますよ君たち。

俺は若干諦めの境地に入りながら心の中で呟き本日二杯目のビール(大ジョッキ)を喉に流し込んだ。

「今日は暑いからビールが美味しいよね。」

不意に、正面に座る相模薫さん(20歳/教育学部三年生)が俺に言葉を投げかけてきて目線を上げる。すると彼女も女の子には珍しく生中を片手ににっこりと微笑んでいた。

「そうだね。」

微笑み返せば彼女も嬉しそうに頷いた。

ん?なんかいい雰囲気じゃん俺ら。

そう思った時だった。

「じゃあ俺そろそろ帰るから。」

義理は果たしたと謂わんばかりの衛の言葉が降ってきた。相模さん以外の女性陣は明らかに不平不満の声を上げ、男性陣は残られても女取られるだけだしでも帰られたら自分達の面目も潰れるしで非常に複雑な表情で言葉を掛けていた。

そんな中、俺は心の中で「よし!」と自身を奮い起こして、ジョッキに入ったビールを一気に飲み干す。そして衛が退場しやすいように立ち上がり、用意していたゲームを始めようと決めた。

みんなの注目を集めたところで小声で「今のうちに帰れよ」と友人の背中を押すと「ありがとな。」と肩に手を置かれながら言われた。

しかし去ろうとする友人の気配を感じた瞬間。座っていた時には見えなかった位置に見覚えのあるお団子頭を発見し思わず友人の腕をがっと掴み戻らせた。衛は驚きで無言で見つめ返してくる。

「え?土屋先輩?どうしたの?」

相模さんが、立ち上がったままで固まり衛の腕を掴んだままの状態の俺に声を掛けた。
皆もきょとんとして見上げている。

「あーごめん俺らトイレ行って来るわ!」

後から考えたら男が一緒にトイレって何だそれ気持ちわるっ!とか思ったけど、とにかくおそらく緊急事態な現場に衛を急行すべくそんなことを言ってその場を離れた。ゼミの奴らの「俺達だけにすんなよクソ貴士〜!!」という痛いほどの視線を感じながら。



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