赤ずきんちゃんに気をつけて

□《4》
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「オレは生きてるよ。ちゃんと生きている。生きててこれからもフェンのそばにいるよ」
 優しい情のある声にフェンは末吉の顔を見つめる。
「これからも?」
「これからもだ。オレはフェンと共にいるよ」
 しゅるっとフェンの伸びた爪が短くなっていく。牙もただの犬歯に戻った。
「何でアンタ生きてるの? 銃弾は当たったわ。血だってそんなに噴き出して――」
「ちょっと防弾チョッキ仕込んでました。まさか血まで出る仕様になっていたとは思ってなかったけど」
 メイジーに向き直った末吉はしれっと答えた。
「防弾チョッキ? アンタ何者なの?」
 メイジーがごくりと喉を鳴らす。
 末吉が、赤く汚れボリュームのなくなったダウンベストの内側から、フェーブルランドの徽章の入った身分証明を取り出し見せる。
「フェーブルランド中央統括管理官、八木野晴子マネージャー代理、八木野末吉」
「統括マネージャー? お前が八木野管理官の……」
 初めて知った事実にフェンは目を見張る。八木野晴子は末吉の母親の名だった。そういえば統括マネージャーと姓が同じだと今さらのように気付く。
「ウソ、中央統括? こ、これは事故よ! 私は悪い狼を撃とうと思ったのよ。それをアンタが邪魔するから仲間だと思って」
 メイジーが自分の正当性を訴えるが、末吉は冷ややかに告げた。
「今さら何を言っても無駄だ、赤毛のメイジー。今ごろはお前に仕事を依頼したおばあさんも確保されている」
 がくりと膝を折ったメイジーから銃を取り上げた末吉は、ポケットから取り出した拘束具をその手にかけた。
「なによ! 私は悪い狼をやっつけてるだけよ。それがいけないことなの!?」
 それでもおさまらないメイジーが声を張り上げる。
「当たり前だ! 狼とてフェーブルランドの住人。それがどんなに敵役でも〈物語〉を構成するのに必要な存在なんだっ」
 いつも笑っている末吉の、初めて聞く怒声だった。





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