赤ずきんちゃんに気をつけて
□《3》
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『おばあさん、赤ずきんよ』
赤ずきんという少女をイメージして声を出す。
末吉がこんな声を聞いたらきっと「何て可愛い声なんだ」と言い出しそうだと思ったフェンは、そう考えてしまった自分が恥ずかしくて自己嫌悪に俯く。
自分のことを「可愛い」と思っているのか。末吉に言われてその気になっていたのか。狼は恐れられる存在で、可愛いなど言われて喜んではいけないのに。
末吉のことをおかしいなどとよく言えたものだ。おかしいのは自分もではないか。
フェンは息を吸い込み、気持ちを役に集中させると、再び『おばあさん』とドアを叩いた。
しかし中からの応えはなかった。
「狼が来ても返事をしないという話になっているのか? 今回は」
中のどんな音も聞き漏らすまいと耳を澄ませる。何かが息づく気配を感じた。留守ではないようだ。
「入ってみるか」
このまま家の前にいても話は進まない。狼はおばあさんを襲って成り代わり、ベッドで訪ねてくる赤ずきんを待ち構えなければならない。
『おばあさん? 赤ずきんよ』
家の中は静まり返っていた。何か変だと感じながら、足音を忍ばせ奥へと進む。
『おばあさ…ん?』
ベッドは膨らんでいた。誰かが寝ているのは間違いない。後ろ足で立ち、そのベッドを覗き込む。だが。
『待ってたわよ、この悪党狼!!』
『何!? 誰だ、お前は!!』
悪党? わたしが?
フェンは息を飲んだ。鼻先には銃が突きつけられたいた。
ベッドにいたのはおばあさんではなかった。銃を構えている髪の赤いこの少女が赤ずきんか?