赤ずきんちゃんに気をつけて

□《2》
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 山羊のくせに人? 「赤ずきん」に登場する人の男は狩人だ。だがそんなはずはない。末吉が山羊属性なのは間違いないのだ。
「あ、あれー? ヘンだなー。変わってないねー。ゲートでバグでも起きたかなー。オレ今回イレギュラーだし?」
 でも耳は変わってるよ、と被っていたニットキャップを取って山羊の耳を見せた末吉はへらっと笑った。
 だがフェンは目を眇める。怪しい? 何か隠している?
「末吉、お前何か隠し……」
「そ、そんなことよりさフェン、やっぱりきれいだねー尻尾ふさふさー」
 末吉はまるで誤魔化すようにフェンに抱きついてきた。
「おい、止めんかっ!」
 首筋に顔を埋められて、わさわさと尻尾を撫で始めた末吉の手から逃れるため、フェンは身を捩る。
「なんでー、気持ちいいのにー」
「アホか! べたべた触るなっ! わっ!」
 今度は体重をかけられひっくり返された。
「ホント、フェン。全身ふさふさだー。それに肉球! うわぁー、いい、いいー。ぷにぷにー」
「こら、末吉! ふざけるなっ! くそっ」
 背といわず腹といわずくまなく触られ、くすぐったくて堪らない。
 何か理不尽だとフェンは思った。こちらは狼化して人のように手が使えないというのに。なのに、末吉は山羊のくせに! なぜ人の姿をしたままなのだ!
「ねえ、フェン。オレ、キミの牙も爪も好きだよ。その見る者がひれ伏したくなるような強く光る眼も」
 転がりながら頬を挟まれ、うっとりと見つめてくる末吉の眼に自分が映っていた。その姿は人ではなく狼だ。
「だからさ、何があってもオレを信じてね――フェン」
 何て優しい色をして自分を見るのだろう。
 不覚にもドキっとフェンは胸を高鳴らせてしまう。
「末吉、この――」
 そんな自分が許せず、フェンは何か言い返さなければと考えるが、言葉は浮かばない。ガルルと喉が鳴るばかりだ。
 狼化した姿を見ても怯えることもなく、自分に擦り寄って。まったくこのバカ山羊。前代未聞だ、狼を好きだという山羊なんて。
 狼化をしていてよかったと思った。これなら昇る朝日と同じ色に顔を染めていても分からないだろうから。




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