赤ずきんちゃんに気をつけて

□《1》
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「『赤ずきん』? それ、本当なの?」
 タイトルを口にした途端、末吉が頬をぴくりとさせ、一瞬険しい目をした。
「わたしが嘘を言っていると言うのか、末吉」
 これが証拠だと、フェンはゲート管理スタッフに見せるために携えていた指令書を末吉の鼻先に突きつけた。
「何で!? どうして!?」
 ばっとそれを手に取った末吉は、見る見る顔つきを変えていく。
「何をそんなに驚いている。わたしの属性は狼だ。だから狼の役をするのは当然であろう?」
 フェーブルランドの住人である以上、中央の統括本部から命令は絶対なのだ。末吉ごときが異を唱えることはできない。それが住人の義務だ。
「でもさ、フェン。キミは確かに狼属性だけどお姫様だってできるんだよ!?」
 それはお前の脳内だけの話にしてくれ。
 フェンはやれやれと首を振る。
「バカを言うな、狼は狼だ。他の役がやれるわけがなかろう。だから末吉。わたしには仕事がある。ゆえにお前とランチしている時間はない」
 分かったか、ときっぱりと告げたフェンは末吉に背を向け歩き出す。
「待ってよ。フェンが行くならオレも一緒に行く」
「は!? 赤ずきんに山羊は出ていないぞ!?」
 何をすっとぼけたことを言っているのかと声が裏返りそうになった。まったくこの山羊が考えることが分からない。
 登場設定にない者が物語の中に行けるわけがないのだ。第一メルヒェンゲートを通るための指令書も許可証もないではないか。
「オレはフェンとかたときも離れたくないんだよ」
 真剣な眼差しで言い切る末吉に呆れ果てたフェンは、もう何を言っても無駄と悟る。
「……勝手にしろ」
 ついて来ようにも、どうせゲート管理スタッフに止められるのは目に見えている。
 フェンは溜め息を足元に落とすと、バスケットを携えた末吉に再び背を向けた。




《2》
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