赤ずきんちゃんに気をつけて

□《4》
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 いったい今何が起きたのだろう。
 フェンは考える。
 噴き上がった赤いもの。
 自分の腕の中に倒れてきた少年。
 フェンは自分の手を濡らす赤いものを見る。べっとりとしていやな臭いがする。
「これは、何だ? 末吉? どうして倒れている」
「フェ…ン……、よかった……。キミが撃たれなくて」
 ごほっと咳き込んだ末吉が、フェンの頬を撫でる。
「戻っちゃったね、いつもの姿に。〈物語〉が終わったからそれも当たり前なんだけど」
 言われてフェンは気づいた。手は毛に覆われておらず、肉球も消えていた。
「アンタ女の子だったんだ。そっかそれでそのバカはアンタの前でいい格好したかったってわけね。けど撃たれちゃおしまいよね。あらあら、たくさん血が流れていること」
 おどけたように言うメイジーの銃口は、今度はフェンを狙っていた。
「きさま、よくも末吉を」
 ぎりり、と奥歯を鳴らし、フェンは湧き上がる憤りのままメイジーを睨め付けた。どくん、と一際高く鼓動が鳴る。
「ああ怖い怖い。人の姿をしても狼は狼ね。ケダモノそのものだわ」
「許さない。その銃が何なのか分かっていて末吉を撃ったきさまを」
 あの銃で撃たれれば自分は間違いなく二度と目覚めることはない。それは死。それでも引くわけにはいかなかった。
 フェンは体が熱くなるのを感じた。人型の姿のままでありながら、鋭く爪が伸びてくる。歯がむずむずし、犬歯が牙として長さを増す。
 末吉を撃ったメイジー。絶対に許さない。
 バカにしたり呆れたりしていても、フェンを好きだといってくれたのは末吉だけ。周囲と付き合うのが上手くないフェンにとって、末吉こそお日様だ。その笑顔にどんなに心和まされていたか。
 その末吉を――。
「な、何よ。アンタ、狼でしょ。狼が何だというの!?」
 フェンの殺気にメイジーの顔からは、先ほどまでのふてぶてしさは消えていた。
「フェン、ダメだ。止めろ! 〈物語〉は終わっている。属性の力を使うな!! メイジー! お前も銃を下ろせ!」
 立ち上がり今にもメイジーに飛びかかろうとしていたフェンを末吉が胸を押さえながらも抱きとどめる。
「フェン、落ち着いて。大丈夫だから。オレは大丈夫だから」
「末吉、でもあいつは!」
 お前を撃った。あの銃で、銀の銃で。

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