赤ずきんちゃんに気をつけて

□《2》
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「フェン・リ・リール。属性、狼。GRMの26番扉にお進みください」
 ゲート入り口で指令書と身分証明書を見せたフェンは、指示されるまま奥に向かった。どういうわけか末吉も一緒だ。
「どうやって管理審査を通ったんだ」
 ゲートの前でてっきり止められると思っていたが、管理スタッフは末吉を通してしまった。
「いいじゃんいいじゃん。マネージャー代理ですって言ったら通してくれたよ」
「マネージャーだと? よくもそんなウソを」
 代理って誰のだ? 自分の付き人気取りでいるのか、こいつは。
「じゃあ、フェン行こうか。26番ゲートの扉が開くよ」
 長い通路を進んだ二人は「26」と書かれた扉の前に立つ。それが「チン」と軽快な音を上げて左右に開いた。
 「扉が開く」と便宜上言っているが実際は大人が八人ほど入ったらいっぱいになってしまう程度の小さな四角い箱のような乗り物で運ばれる。扉から直に繋がっているため、その外観を見ることは叶わないが。
「フェン行くよ」
「ああ」
 ここまで来たら引き返せない。仕方がなく、フェンは末吉とともにメルヒェンゲートをくぐった。
 ふわっと浮き上がるような振動のあと、二人を乗せた箱型の乗り物が移動していく。上っているのか、下っているのかよく分からなかったが、再び扉が開いたときは、目の前には清涼な空気と爽やかな木々の香りが満たす森の中だった。
「無事、ついたな。『赤ずきんの森』か」
 耳をすませば小鳥のさえずりが聴こえてきた。
 フェンは自分の変化を確かめる。フェーブルランドにいるときより目線が低くなっていた。手足は金色の毛に覆われ、無事狼化したと知れる。
 よし、と頷いたフェンは末吉を見る。〈物語〉の中の末吉は、自分よりも小柄な山羊に変化するはずだった。
「末吉、お前その格好どうしたんだ? まるで――」
 フェンは、その外見の変化に目を見開く。いや、変化していないことと言うべきか。
 水鳥の羽毛を入れたベストにハーフパンツ、どうしたことか末吉の姿は、フェーブルランドにいるときのままだった。〈物語〉に入ればその属性が持つ姿になるというのに、これでは「人」のようだ。

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