赤ずきんちゃんに気をつけて

□《1》
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「フェン、天気がいいよー。今日はピクニックびよりだよねー」
 フェン、と呼ばれた狼の属性を持つ少女は、毎度のことながら緊張感の何もない声に脱力感を覚えて息を吐く。フェーブルランドの中央統括本部に向かっている途中のことだった。
「何を言っているのだ、お前は」
 フェンは蜂蜜色のきれいな瞳を半分まぶたに隠し、思い切りしかめた顔を作った。
 こういう表情をすれば、たいていの者は恐れをなしてか、近づいてこようとはしなくなるのを体験上から知っていた。
 しかし「相手による」ということも、目の前でランチ一式入っているのであろうバスケットを抱え、能天気ににぱっと笑っている少年、山羊の属性を持つ末吉で学んだのも事実。
「だってさー、ほらお日様も『今日は末吉くんとお出かけしなさい』って言ってるしー」
「言ってないっ!」
 何がお日様だ。それはお前の脳内のみのものだろう。
「でもでも、フェン。今日は本当にいい天気じゃない? こういう日は外でランチだよ。降り注ぐうららかな日差し、頬をくすぐる甘い香りのする風、恋するもの同士、寄り添い並んで生命を維持する糧を食する。オレ、今日はデザートにアップルパイ作ってきたんだよ。フェン好きでしょ」
「バカ。黙れ末吉。何が恋するもの同士だ」
 好物のアップルパイには心惹かれるが、末吉と何とか同士などと断じて違う。
「またまた、照れないでよフェン。キミの気持ちは分かってるんだから。ちゃんとこの末吉くんが好きって顔に書いてあるよ」
「なっ!」
 言われてフェンは、咄嗟に自分の顔に手をやってしまった。
 しまったと思っても遅い。それが末吉のからかいだということは、これも何度も経験して分かっているのに。
「赤くなっちゃって、フェンてばカワイイ」
 満面に笑みを浮かべて、ますます末吉がまとわりついてくる。これでも子山羊と呼ばれるころは可愛かったのに、いつのまにか自分より大きくなっているのがまたどういうわけか悔しい。
「ええい、よるな。わたしにさわるな」
「もうもう。そんな冷たいこと言わないでよ。このツンデレさん」
「何がツンデレだっ! わたしがいつデレた!」
 目を細めて自分を見ている末吉に、堪らずフェンは拳を振り上げる。
 けれど本気で殴るわけではない。一応狼の属性持ちだ。殴れば、ひょろりと伸びた痩躯の末吉にケガをさせてしまう。
「わお。その怒った顔もステキだよね。好きだよ、フェン」
「話を聞かんか、末吉!」

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