お題

□合宿最終日
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「好きです!あ、あの…わた、わたしと、付き合ってもらえませんか……?」


突然耳に入ってきた女子生徒の告白に、思わず足を止めた。

今日はわたしがマネージャーを勤める男子テニス部が、学校で毎年行っている合宿最後の日。
合宿が終わると明日は1日休み、明後日からは2学期の始まりである始業式がある。
そんな、夏休みも残り2日となった今、わたしは幸村くんを探していた。
昼食後の短い昼休憩時間は炎天下に体を酷使している部活の中でも重要な時間である。
その貴重な休憩時間に、幸村くんがいないと柳くんから言われたのは五分前。
汗だくで疲れきっている彼らにタオルや追加ドリンクを渡し終えた時にはまだ幸村くんはいた。
けど、みんなで昼食をとった直後、席を立った幸村くんは一向にもどってこないそうだ。
申し訳ないのだが、明後日からの部活動内容について精市に相談があるのだか、いかんせん今は練習により体がボロボロなので、代わりに精市を探してきてくれないか、……柳くんは疲れているようには見えなかったけれど、もしかしたら内心疲弊しているのかもと思い直し、その頼みを了承した。
そして幸村くんを探して校内をうろうろしていたら、渡り廊下のさきの、校舎脇にてはじめの女子生徒の告白が聞こえてきたのだった。


「………ごめん」


…小さく呟いた相手の男子生徒の声は、わたしが探していた幸村くんのものだった。
立ち聞きしちゃいけない、と思いつつも、わたしの中の野次馬魂が疼いてしまい、その場に留まってしまった。


「…俺、好きな子がいるんだ」


神妙な口調で女の子に答えている幸村くんの思いがけない台詞にどきりとした。
これは、聞いては、いけない。


『…あ、の…幸村くんの、好きな人って…誰…?』

「うちのマネージャーの名字名前だよ」


自分の体が燃えるように熱い。
炎天下で動き回っていたから暑いのは当たり前なのだけれど、この熱さはそのせいじゃない。


「そ、…っか、ありがと、う。聞いてくれて」

「いや、こちらこそ応えられずにすまない」


それじゃ、と言った女子生徒はわたしがいる方向とは逆の方へ走り去っていった。

って、わたし今ここにいちゃマズイんじゃ。


「名字さん」


渡り廊下でしゃがみこみ、様子を伺っていたわたしのそばにいつの間にか幸村くんがいた。


「ねぇ、聞いてくれた?」


『聞いてくれた、って』

「そのままの意味。ふふ、現行犯で捕まえた。もう逃がさないからね」





合宿最終日

仕組まれた休憩時間




(二人きりになれば言い逃れ出来ないだろう?)

(…あの、子は)

(仕込みの子。ちなみに彼氏持ちの女子生徒だよ)

(え!!?)

(あと、昼から俺は病欠ってことになってる。名字さんはその付き添い)

(ええ?!!なにそれ!?)

(さぁ、返事を聞かせてもらおうか。はいかイエスね)

(逃げたい…)





………

柳さんが幸村の告白をさらっと手伝う、みたいなのを書くはずが…
計画的犯行になりました


150311



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