お題
□セミファイナル
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「うっわあああ!こ、こないでえええ!」
部活を終えて、一緒に帰ろうと真琴に誘われた。
同じマネージャーであるコウちゃんと夏休み明けからのスケジュール確認をするため少し待っていてねと言ったわたしに真琴はにこやかに頷いた。
遥は家で鯖が待っている、と、焦りながら駆け足で先に帰宅した。
渚と怜くんはふたりしてもう一度水着を見に行くと言っていたっけ。
…今さっき聞こえたのは真琴の声。
ヤバい、今、真琴はひとりだ。
いきなり走り出すわたしにコウちゃんはビックリしていたけど何も言わず見送ってくれた。
駆け足で女子更衣室から出たわたしは、プールの向かいにあるベンチを見た。
そこの木陰で待ち合わせをしていたから、真琴はそこにいるはずだ。
『真琴!何があったの!?、って、あ………』
「っ!!名前ーー!!」
涙声でわたしの名前を呼ぶ真琴を発見した。
そして。
『……うわ、久しぶりに見た…』
真琴が凝視する足元には、今は動いていない蝉がいた。
『蝉爆弾…』
夏の見物、蝉の最後。
スイミングクラブに通っていた時は、いつも通る場所に、大量にいたものだ。
でもスイミングクラブを辞めてからは、通ることがなくなり中学生になってからは運良く一度も遭遇しなかった。もちろん真琴も。
そう、スイミングクラブの頃から、真琴はこれがかなり苦手だ。
わたしもどちらかというと苦手だけど、真琴ほどではない。
ただ、いきなり動いてもらうとかなり驚くけど。
『真琴、ゆっくり、こっちに、おいで』
「う、うん」
身体は遥よりも大きいけれど、心はチワワ並みに小さい真琴を宥めながらこちらに誘導する。
「名前〜〜〜……」
『そうそう、その調子、』
真琴のは生まれたての小鹿のように足がガクガクしている。
『もうちょい…っ!』
「名前!!」
わたしのいるプール側に着いた真琴はわたしに抱きついてきた。
抱きついてきた、というよりは抱きつかれた、みたいな勢いだったけど。
「ここここ怖かったあああぁぁぁぁ……」
『よしよし真琴、よく我慢できたね』
「っ、名前…」
うるうるしてきた真琴の頭を撫でたかったけど身長差的に無理だったので肩を撫でてやった。
その瞬間。
意識から外していた蝉が勢いよく地面を這いずり回り始めた。
『っ!!』
「わああぁぁああ!名前名前名前名前ー!!」
ぎゅうう、と音がしそうなほど真琴に抱き締められる。
苦しい、死ぬ…っ!
『ま、真琴、落ち着いて、どうどう』
大きな真琴の背中を撫でる。
真琴の体越しに、蝉がいた場所を覗いた。
びびびびび、と鳴いていた蝉はどこかに飛んでいったらしい。
さっきまでいた周辺を見てみたがもういないようだった。
『真琴、真琴、もう蝉はいないみたいだよ』
「ん……あ、…よ、良かった…」
『よし、帰ろっか』
「うん」
更衣室から自分の鞄を取りに戻った時、コウちゃんに相変わらず熱々ですねっ!なんて笑顔で言われた。
我が幼なじみ様はまだまだビビりなようです。
セミファイナル
(名前がいてくれて良かった)
(そう?)
(近くにいる、ってわかるだけで、すごく安心するから)
(そ、そっか)
………
このお題は絶対真琴だ!と、即決めました。
セミファイナルには会ったことはない自分が書いたのでこれでいいのやら←
150116