お題
□ヒグラシの鳴く8月26日
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夏休みが始まる前は、一月以上ある長い休みに心が踊った。
しかし始まってしまえばあっという間で。……もうすぐ終わってしまうことに意気消沈してしまう。
思わず大きくため息をついた。
「あ、名字さん」
項垂れながら学校を目指していたわたしの背中に、声がかかった。
振り替えると、クラスメイトである孤爪くんが佇んでいた。
軽く首を傾けている彼は、わざとやっているのかと言いたくなるほどあざとい可愛さだった。
『…や、やぁ孤爪くん。今から部活なの?』
「うん」
『…奇遇だねぇ〜…わたしも部活でさ』
ふーん、と興味無さそうにそっぽを向いた孤爪くんはスマホを取りだしいじりはじめた。
なんだいなんだい、自分から話しかけてきといて興味無しってどういうこと!と、内心思ったけど流石に言えなかった。そんな風に言い合えるほど仲は良くはないから。
美術部に属しているわたしは、文化祭に出す絵を描くために夏休み中も学校に来ていた。
何を描こうか悩みながら校内を散策していた時、偶然にもバレー部が活動している体育館まで来てしまった。
そこで、孤爪くんを発見した。
教室では極力目立たないよう存在感を消しているように見える彼。
そんな彼がバレーをしている姿を見た瞬間、雷にでも打たれたかのような衝撃を受けた。
普段はけだるげに授業を受けている時の彼とは正反対の、すばやい動きに目を奪われた。
それからわたしは、どうしても部活をしている孤爪くんを再び見たくて、何度も体育館へ足を運んだ。
しかし体育館の中に入るのは躊躇いがあった。
ただ単に孤爪くんを見たいがためだけに部活を観戦するのは気が引けたから。
なので体育館には入らず、体育館の中がかろうじて見える場所に陣取り必死にスケッチをするフリをしながら見つめた。
…最近はどこか別の合宿所に行ってしまったのか、バレー部は学校には来なかった。
見つめていた時には、発見されないように細心の注意を払っていたのに、夏休みも終わりかけの今、孤爪くんご本人に声をかけられてしまった。
あぁ、終わった………
「残りの日数も、合宿があるんだ」
『へぇ、大変だね』
「………」
『………?』
「………」
『………??』
わたし、何か変なこと言った?と問おうとした瞬間、真剣に部活をしている時のようなするどい瞳とぶつかった。
「森然で、あるんだ」
『あーそうなんだ。頑張ってね』
内心焦るわたしは早く孤爪くんの視界から消えてしまいたいとヤキモキしていた。
だからか、返事が雑になった。
あぁ、わたしって嫌なやつ。
いたたまれなくなったわたしはそれじゃ、と言い去ろうとした。
けれど、孤爪くんに右腕を捕まれ、驚きながら足を止めた。
『え、と、な、何』
「…、……、………」
相変わらず目線は反らされたまま。
あぁ、言いにくいことを言おうとしていることがひしひしと伝わってくる。
もう来ないで、何見てたんだ、迷惑だから、なんて、何も語らない孤爪くんからきっと浴びせられるであろうわたしへの言葉を勝手に考え、思わず身構えた。
「おーい研磨ー、言えたかー?」
間延びした声が孤爪くんの背中の向こうから聞こえた。
あれは、バレー部の部長だ。
近くまでやってきたバレー部部長は、孤爪くんとわたしを交互に見てにんまり笑った。
「なんだ、相思相愛だったか、良かった」
『…………………はい?』
考えていた言葉と逆のことを言われ、ぽかんとした。
バレー部部長の顔を見たあと、いまだにわたしの腕を掴んだままの孤爪くんを見る。
……ものすごく顔が真っ赤になっていた。
ヒグラシの鳴く8月26日
孤爪くんは顔が真っ赤なまま、わたしは呆気にとられたように固まった
(あ、あの部長さん、それってどういう)
(え?……研磨、まだ言ってないのか?)
(言うって何を…)
(そりゃ、こくは)
(っクロ!)
(あはは)
(…………えっと…)
………
研磨視点で書いてみたいです
長くなりそうだったので短くしました
140905