お題U

□ほらそこに終わりの足音が響く
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「名前」


大学内で、わたしを呼び捨てで声を掛ける人物は限られてくる。
ここでは二人しかいない。
研くんか英良くん。
この声は、


『研くん』

「今日、さっきの講義で終わりだよね?」

『うん、まあね。あ、研くんもだよね?』

「そう。…ちょっとさ、相談したいことがあるんだけど」

『…相棒じゃなくていいの?』

「…え?相棒……?あ、もしかしてヒデ?…ヒデには、言えないんだ」

『わたしには言えるのに?』

「言える、というよりは、言いたい。知ってほしい」

『相談、じゃなかったっけ?』

「……相談は、ただの口実」


講義の始まる合図であるチャイムが鳴り響く。
人が、減っていく。


「人目につくところじゃ落ち着いて話せないから、僕の家に来ない?」

『いいよ』


人が疎らになっている正門を抜け、研くんの家に向かう。

道中、研くんは最近始めたというカフェのバイトの話をしてくれた。
まだ一度も研くんのバイトをしている姿を見たことがないので、今度見に行くから!と本人へ意気込んだら、一杯奢るよ、と返ってきた。


『研くんもコーヒー淹れるの?』

「まだまだ修行中だけどね……」

『わたし、研くんの淹れたコーヒーが飲みたい!それを奢ってほしいなぁ、なんて』

「いいよ。…寧ろいいの?修行中だよ?」

『いいの!…ふふ、研くんの淹れたコーヒー楽しみ〜』

「そう言って貰えると嬉しいよ」


…本当に、彼は優しい。
今だってさりげなく車道側を歩いてくれている。
この優しさは今だけ、わたしだけのもの。
独り占めできている幸せににやけてしまうが、さっきの研くんの言葉が気になり気持ちが暗くなる。
相談、じゃなく、言いたいこと。
なんだろう、胸騒ぎがする。
……もし、恋愛相談だったらどうしようか…。

密かにしくしく痛む胸を無視して、研くんに笑いかけた。


『そういえば今日は永近くんどうしたの?いつもなら一緒だよね、この曜日は』

「あぁ、永近ね…名前、あいつのことが気になるの?」

『気になるって言うか、いつも二人一緒にいるから変な感じがして』

「…永近は用事。錦先輩のとこ」

『あ〜あのリア充感バリバリの』

「あはは、なにそれ」

『絶対彼女いるでしょ、それも美人の』

「あーそうだね、いるよ。……女子ってあぁいう顔がいい男子が好きなんじゃないの?」

『いやいや、研くん、女子にも好みというものがあってだね』

「…名前はどんな人が好みなの?」

『えぇ、わたし?!いやーあはは…』


本人目の前にして言えるわけがない。


『……わたしのなんかより、研くんの好みを知り、たい』

「えっ?!僕、の…?」


肯定するように首を縦に振る。
その瞬間、ものすごく後悔した。
研くんの好みとか…かなり聞きたいけど同時にかなり聞きたくない。
それはきっと研くんに対して自分の持つ心への淡い期待と、残酷な現実への恐れ。

横を歩いていた研くんが突然歩みを止めた。


『…?研くん?』


俯いている研くんにザワザワと胸が騒ぐ。
…やっぱり、あんなこと聞かなければよかった。
もしかしたら気分を悪くしたのかも、と思い数歩後ろにいる研くんに近づく。

一歩踏み出したと同時に、研くんが伏せていた顔をバッと上げた。

その顔は、真っ赤だった。


「…本当に、僕はズルいよね」

『……どうして?』

「期待、している、から。…名前が、僕のことを気にかけている、知りたいって言ってくれるのが、」

すう、はぁ、と深呼吸する研くんは、とても恍惚な表情を浮かべていた。


「ものすごく嬉しいから」




ほらそこに終わりの足音が響く


それはきっと
友人の道をのんびり歩む自分を
別の新たな道へ導くための
わたしを急かす足音





(ま、ま、まさかわたしの気持ちがバレて…!?)

(僕、知った時は嬉しくて。気持ちは同じだったんだって)

(………なんで、今日言おうって思ったの)

(さっきの名前の不安そうな顔見たらにやけ顔が止まらなくなって)

(なっ…?!研くんってまさか隠れドS!?)

(…違うよ。…名前が可愛いすぎたから。もう我慢できなくて。だからごめんね?)

((……確信犯がいる……!))




………

ちょっとSっ気ある金木くんが好きです←
本当は違う展開にするはずだったのですが。予定では悲恋でした。
金木くんが破顔してる夢に巡り会わなかったので、自分で書きました。
金木くん幸せになってー!←

150619

追記:間違いを訂正しました。気づくの遅い……!

150706



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