お題U
□誰も知らないまちへいきたい
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わたしには、気になっている人がいる。
わたしはその人のことが好きだ。
けど、その人との接点といえば、委員会が同じなだけ。
…なんて薄い関係。
せめて同学年だったら何か違っていたのかな。
昼食後に集合がかかった委員会の集まりが終わった今、彼の同学年の女子生徒たちが十束先輩を囲んで楽しそうに喋っていた。
他の委員会の生徒は足早に自分の教室に帰る中、わたしはその様子を眺めていた。
…なんとなく、面白くない。
なにもできない自分にイライラしてくる始末。
そんな時、思わず先輩と目が合ってしまった。
ヤバい、と思ったけど、目が合ってしまったのは仕方がない。
会釈をして視線を他へ向けようとしたのだけれど。
「名字さん」
先輩が声をかけてきてしまった。
あぁ、近くにいる女の先輩方の視線が痛い……
なるべく平静を装い返事をした。
『はいなんでしょうか十束先輩』
「さっきから名字さんに、じぃーっと見られている気がしたんだけれど………。俺、何かしたかなぁーって思ってさ」
『いえ、別に……。ただ』
「ただ?」
にこやかにわたしの言葉を待つ先輩に無性に腹が立った。
『……っ、人気者は大変ですね!って思っただけですよ!』
吐き捨てるように言った後、十束先輩の元から逃げるように走り去った。
わたしの放った言葉に一瞬呆けた先輩は、なんか面白かった。
あんまり見ることのない顔に走りながら笑ってしまった。
教室に入ろう。もうすぐチャイムが鳴るし。
「ちょっ、名字さん、待って、はぁ、っ」
走ってきた方向を見たら、肩で息をしている十束先輩がいた。
『十束先輩、もうすぐ授業がはじまりますよ』
「ね、ねぇっ、…さっきの、どういう、意味、なの、かなぁって、」
『息切れヤバいですね。お茶をどうぞ』
「ありがと、う」
昼食後に購買で買った、まだ開けていなかったペットボトルのお茶を十束先輩に渡す。
十束先輩は、ごくごくぷはーっ、と、テレビCMみたくきらめく汗を流しながら豪快に一気に飲み干した。
何をしても絵になる人だなぁと思った。
『それではわたしはこれで』
「…だーめ、まだ理由聞いてない」
チッ、忘れていて欲しかった。
「ねぇ、名字さん、俺、自惚れてもいいの?」
『………あの一言で理解できる十束さんは流石ッスね』
「それは八田の真似?」
『……自信作です』
「あは、いいね。じゃなくて、…名字さんは、妬いてくれた?」
『!!!』
「わざと他の子と仲良くしてて良かった」
『…仕組んだんですか』
「うん」
………なんて人だ。
「顔、真っ赤だよ?名字さん、かーわーいーいー」
『十束先輩の馬鹿!』
「えっ、ヒドい」
言い合いをしている私たちのいる廊下へ、教室からククリちゃんが顔を出した。
「………名前ちゃん、十束先輩も。……授業、始まってるよ…?」
『え!?』
「俺は気づいていたけどね。牽制も兼ねて名字さんの教室前での会話にしたくてね」
『牽制?!なんですかそれ、ってか今までのわざとだったんですか?!』
「あっ、言っちゃった」
誰も知らないまちへいきたい
(クラス全員に今の見られた…消えたい)
(大丈夫大丈夫、俺と共に生きよう、名前)
(…や、止めてください!)
………
学園Kクリア祝!
150313