前略、セルティ・ストゥルルソン様。あとついでに変態新羅へ。




いきなりこんな手紙をすみません。
いや書いてないけど、今お前らの目の前でしゃべってんだけどよ。
頼む、なんか直で言うのきついんだ。
これくらい現実逃避しないと耐えられないんだ。
分かってるけど、取り敢えずつき合ってくれ。




ああ……あんがとなセルティ。
あと新羅は死ね。




おう、そうだな。んとな……だからよ……。







突然ですが俺、折原静雄になりました。







【折原静雄物語T〜プロポーズ編〜】








色々あったんだ。
いや、何があったと訊かれたら実はそんなに話があったわけじゃあねぇんだけどよ。
なんつーか、なんでかあいつの……あの忌ま忌ましいノミ蟲と義兄弟になっちまったん……落ち着けセルティ!
深呼吸!深呼吸しろ!息吸えなくても呼吸しろ!
あと新羅はやっぱり死ね。




理由?んなもん俺だって知らねえ!
いきなりあいつが俺の家族を呼び出して誑かしたんだ!
しかも書類手続きも済んじまったから俺は今やあいつと同じ名字だ。
自分でも信じらんねー。
だって俺があいつと家族なんだぞ、虫唾が走る!
親父達も親父達だ、あっさり認めたし。幽だって……止めてくれなかった。
そんなに俺が邪魔だったのかな……そうだよな、俺のせいで家族は苦労しっぱなしだもんな。
こんな俺なんていない方がいいって分かってる。



……あんがとなセルティ。大丈夫だ、別に凹んでねぇよ。
そりゃあ最初は驚いたしショックだった。
でも今はある意味良かったのかもしれねぇって思ってる。
だって……これで臨也を殺しても幽に迷惑がかからないからな。



当たり前だ!俺があいつと仲良くなるわけないだろ!
今だってあいつを殺したくて殺したくて仕方がないくらい憎くて大嫌いだ!
あいつだけは許せねぇ。俺の家族だけでなく手前の家族まで巻き込んで一体なにを企んでやがんのか。
なーにが息子さんを俺にくださいだ。
俺を義弟にしてどうす……あ?どうした二人とも?




そうだぜ、臨也の野郎が親父達に面と向かってそう言ったんだ。
いきなり土下座するから俺も驚いた。




……は?なんだよ付き合ってたのかってどういう意味だ!?
ふざけんな!!
俺らは憎み合ってただろ。
それがどう間違ったら付き合うとか、つーかまず俺ら男同士だしよ。
なに意味わかんねえこと言ってんだお前ら!?
んまぁ確かに、あいつとの関係は変わったんだけどよ……一応あいつ、今は俺の兄貴ってことだし。
あー!腹立つ!



あ?順を追って話せ?
順を追うも何もあいつが……ああそうか、そもそも俺らが一緒にいること自体信じらんねぇか。
そうだよな、俺だって未だに信じらんねぇ。
なんで俺が臨也なんかと……




あっ悪い。話の途中だったな。
つっても特に話すような内容なんてないぞ。
あえて言うようなもんっつったら……プリンか。




だーからプリンだ!
プリンはプリン、あの甘いプリンだっつの。
つーかプリンに他に何があんだ?
プリンプリン?意味わかんねーなオイ。
ってセルティ?なんで新羅の首絞めてんだ。別にいいけどよ。




そうだよ、あの日も俺達は一緒にプリンを食ってたんだ。
色々あって俺と臨也はちょっと前からプリン仲間?みてーなもんになってよ。
美味いプリンが手に入ったら一緒に食う約束してたんだ。
最初の頃は臨也が有名店のプリンを買って来てよ、時間が合えば俺の家かあいつの事務所で一緒に食って、どのプリンが好みか言い合ってたんだ。
どうしてそうなったって言われても……俺にもよく分からねえ。
前にあいつが熱出して俺がそれを見過ごせなくて看病してやったらよ、あいつは「貸し借りは嫌だ」なんて抜かしてプリンを持ってきやがって。
なんつーか……成り行きで一緒にプリン食うようになって……





だぁぁあああー!!
いちいち騒ぐなやかましい!
臨也みたいにペラペラペラペラ早口言葉かっ!




あっ悪いセルティ。一応二割殺しに留めといたからよ。
そうか?悪いな。なら三割殺しとく。
あーしかしムカつく。
あいつのこと思い出したら余計腹立ってきた。
今日こそ殺す。家帰ったらめらっと殺す。





うおっ!?なんで今度はセルティまで騒ぐんだよ!



あ?言ってなかったか?
ムカつくんだが俺とノミ蟲、一緒に住んでんだ。



だーかーら叫ぶな!
うっせえ。
意外になんとかなるもんだぞ。
一緒に住むって言っても、あいつはほとんど家にいないし。
そういう意味では前と―一緒にプリン食ってた頃とあんま変わってないんだ。
晩飯を一緒に食ってあいつ手作りのプリン食って……



は?なんだって?
そうだぜ?臨也の手作りだ。
だってプリン食うために毎回店に行くの面倒だろ?
んで俺も手作りのプリンは大好きだしよ、作ったのがノミ蟲だって分かってても……なんだ、嬉しかったんだ。
大体プリンを手作りとか、マジで凄くねーか?
あんな繊細なもん、工場でないのに作れるんだぞ。
初めてあいつの作ったプリン見た時はうっかり感動しちまった。



……そうだよ、卵割れないからな俺は。
うっせえ!
だって難しいだろ。卵割るのって。
砕かずに殻だけ割るとか、俺には無理だ。
カップ麺とかカレーとか味噌汁みたいに簡単な飯なら作れるけど、卵料理は絶対作れねえ。
だからよ、今も卵料理は臨也に作ってもらってる。



べっべつにあいつにばっか作ってもらってるわけでないぞ。
俺はまだあいつとの生活に慣れてないから、苛立つとすぐ包丁潰しちまって上手くいってないだけで。
一応分担はしてるんだ!
まあ……まだあいつが作る方が多いな。
でもあいつのおかげで卵料理が食えるし、俺の好物のオムライスもー……。


……あー、あいつの作ったオムライス食いたくなってきた。
後でメールしとくか。




あ?なんだよ新羅。
顔が引き攣ってんぞ?



……そうか?
まぁいいけどよ。




そうだな……プリン食ってた頃もこんな感じだったんだ。
不思議なもんで一緒に飯を食ってしまうと喧嘩する気もおきなくて、気づけばずるずると一緒にいることが増えてった。
こうやって毎日こいつといられたら、こんなに穏やかで殺し合いの喧嘩がない毎日はどんだけ幸せだろーなとか。
そんなことを考えていたからなのか。

ある時な、無意識のうちに言ってたんだ。



「お前の作るプリンは美味いからな。これなら毎日食いてーわ」



思ったままに言ったくせになんか恥ずかしくなってよ、すぐ誤魔化そうとしたんだ。
だってあいつを素直に褒めるのって癪じゃねえか。
なのに当の臨也は真顔だったんだ。
そんでよ真面目な顔して俺に質問してきやがって。



あー確か「俺のこと嫌いでないの?」なんて訊いてきたんだった。
いきなりだったし必死な顔してたあいつにびっくりしちまって、どう答えたかなんて覚えてないんだけど。



……まぁ意外と家にいる時のあいつは大人しいし、卵割ってくれるし……嫌いだし嫌いなんだけど嫌いなだけでないっていうか。


だー!メンドくせえ!
あいつと関わるともやもやすっから嫌なんだよ!
と に か く だ。

必死な顔してると思ったらあいつ、いきなり俺の手を握ってきて。



「シズちゃん……ううん、平和島静雄さん。どうか、俺とけっけけけけっこ…」



どもって何を言おうとしてたのかは分からなかった。
でも俺は、ノミ蟲からのフルネーム呼びに驚いちまって突っ込む余裕もなかった。
たぶん馬鹿みたいに口開けてたと思う。
そんな俺を目の前にしてあいつも突っ込まないで、あの臨也が俺を馬鹿にしないで真面目な顔したままで、




「シズちゃんの作った味噌汁を毎日飲みたい!」




なんて意味不明なこと言ってきたんだ。
な?変だろ?
脈絡ないっつうか……確かに俺も人のこと言えないけどよ。
なんで味噌汁って思うだろ?
あいつ好き嫌い多いから俺の料理に対しても、結構文句ブーブー言うんだぜ。
味噌汁とかは特にそうだった。
それなのになんでって思うだろ?
だから俺も混乱して、もう何がなんだかわからなくて。
ただ……必死な顔した臨也は悪くないな、なんて馬鹿みたいなこと考えてた。



……今思えばきっと、その頃から俺はあいつに騙されてたんだ。
そうだ!きっと毒でも盛られたんだ。
だってあん時、急に身体が熱くなったし心臓も妙にドクンドクンうるさかった気がする。
糞!まさか全て計画だったなんて!
大体なんで俺はまだあいつを殺してないんだ。おかしい。
家族になったからって遠慮してたが、もう我慢できないな。
今日こそ、帰って一緒にオムライス食ったら殺す。めらっと殺す!




つーわけだ。
お前らにだけは俺が臨也を殺す前に報告しないといけないなと思ってたからよ。
ニュースで折原静雄が義兄を殺したって流れても驚かないでくれ……あん?


返事?






したぞ?
別に味噌汁くらいなら面倒でないし、俺もプリン食えて嬉しいから。
別にいいぞって。




……。


…………。






…………おーい?新羅?






は?
待て、今なんつった!?







「それ、プロポーズだよ静雄」







「ハァ!?」







折原静雄生活14日目。
――プロポーズされてました。







To be continued ?






素敵企画サイト「プラタナスの木漏れ日に」様に提出。
一応続き物なのですが、企画に提出間に合うのか(涙)まずは1話だけでもと……
まさかのイザシズ?疑惑の変なシズイザ夫婦生活の予定です。
まだまったく夫婦でありませんが、読んでくださりありがとうございます!

「なんかショコラ」
ショコラちょこちょこら



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