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□うさやとお花見
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サクラ咲く。
なんて言うと入試に合格したみたいだけど、別に俺は受験なんてしてない。
今のところ知り合いに受験生もいないし、そもそも今の俺は他人の合否なんぞを面白おかしく観察する暇もない。
なにせ俺こと折原臨也(フード着用中)は桜の名所な某公園(人口密度ヤバめ)にいたりするのだから。
ああ言おう。さぁ言おう。
飽きずに言おう。
ど う し て こ う な っ た !
四月うさや〜うさやとお花見〜
目の前で桜の花びらがひらひら舞っている。
いいね、すごい風流だね。
空は晴天、桜は満開となれば絶好のお花見日和だ。
都会生まれの俺は風流に富んだ人間ではないが、花を愛でる感性くらいはある。
目の前で桜吹雪なんて見たら、眉目秀麗な顔にニヒルでない笑みなんぞ浮かべて、目撃してしまった周囲の人間のほおを染めさせるなんて罪作りな行いも、自覚ありでしたりはする。
そうさ、俺は花見が嫌いではない。
俺は団子より花を自称しながら実際は甘味にうつつを抜かす、酔っ払いと喧騒が嫌いなだけのどこかの誰かさん(基本グラサン着用のため桜がいかほど見えるのか甚だ疑問)とは違って、花見客の群れも愛している。
人口過多な空間も、ちょいと高台に上がれば避けられるし、後は浮かれた花見客のばか騒ぎをニヤニヤと見下ろせばいいだけの簡単なお仕事です。
そう、見下ろすってのがポイント。
なにせ俺は人間全体を愛しているだけで、個々人の酒臭い息とか熱気とか汗ばんだ肌(特におっさんの)とか嫌いだし。
いっくら都会育ちで人混みに慣れているとはいえ、なにも桜を愛でに来た時にまで花より人な空間にいたいとは思わない。
つまりさぁ、俺自体は群衆の中に埋もれて花見ならぬ人見はしたくないわけ。
わかるかな?
花見は高みの見物にかぎるんだってば。
ましてや……うん、もう皆まで言わせないでほしいのだけどさ。
プチ人外体験真っ最中に来たいわけないっつのバカやろう!!
「よーし飲み物そろったか?」
「オッケーだよん」
「そろそろ始めようぜ」
「………」
ハイハイ、愚痴が長いって?そうだね長いねくどいねウザいね!
見下ろす〜とか埋もれる〜とか、うん、どうでもいいね。
ポリシーとかアイデンティティーだけで人は生きてはいけないし?
んな細かいこと気にしてたら都会で食っていけないよね。
ましてや花見なんてもってのほかだなぁ!
「「「「カンパーイ!」」」」
「………」
ってなわけで、俺の冒頭のあれこれはぶっちゃけ必要ないから。
業者に添削とか頼んだら情け容赦なく削除される余分な内容だから。
だらだら聞いてて損したって?
うん知ってるよ。
もうね、くだらない御託を並べたのはただの愚痴です。
え?そこまで言うなら、はじめから本題に入れって?
そこはそれ、無意味だって知ってても愚痴を呟きたくなる人間の性ってやつだよ。
繊細な心を理解してもらいたいなぁ。
どっかの単細胞と違うんだから。
「臨也どうした?気分でも悪いのか」
「………」
ねぇ解るかな、このむなしさ。
この、折原臨也が、大好きな人間の群れの中にあって、ビクビクと怯えてるっていう情けなくも悲しい有り様を。
しかもそれを声に出さずに、ひたすら脳内で演説している精神状況を。
一人ボケつっこみも寂しいものだが、セルフ観客込みって寂しさの極地だから。マジで。
一人でボケて一人で突っ込んで、それを一人で聴いた後に言い訳みたく一人で解説するんだよ?
しかも真っ昼間の屋外で。
ウケるー。
かっこ棒読みかっこ閉じ。
「あれ?勝手にビール注いだのが悪かったかな?」
「や、やっぱり今の臨也さんなら、キャロットジュース入りのカクテル用意した方が良かったんですかね?」
「いやに焦ってんな遊馬崎?」
「き、気のせいっすよ渡草さん!」
「…………」
至極、かんたんな話だ。
つまり花見をする人間の頭に、毛だったり薄い皮膚だったりする二つの突起があるか否か、それが問題だ。
「うさや〜どうしたの?」
そう……俺の名前はうさや。
つまりウサ耳だもんね、俺。
成人男子がウサ耳生やして外を闊歩できるか否っつー猿でもわかる……――
「――って!うさや呼ぶなし!」
「あ、反応した」
「ほらほら!やっぱり本人も自分がうさやだって自覚あるんだよ」
「うっうさやさん……!なんて可愛い響きっすか!」
「……すまん臨也。本当にすまん」
あまりの暴言に、ついに俺も現実逃避できずにつっこんだ。
そんでうっかり目の前の光景を直視してしまって、ああ目眩がする。
目の前には立派な重箱と飲み物入りの紙コップ。
見るからにお花見してますって様子の四人の人間。
ニュートラル運転手。
テンション上がりまくっとる腐女子。
酒一杯で赤くなっとる細目オタク。
ひたすら俺に謝る番長。
――どうして俺が通称ワゴン組と花見なんぞしてるのか。
どうして俺がこんだけ病んでるか。
……それはもちろん、うさぎ耳のせいだよ畜生!
「も〜イザイザー。暗い顔してどうしたの?せっかくのお花見日和なんだから、パッーと楽しもうよ!」
「そうだね。天気がよくて人の多い、さらに言えばあちこちでテレビカメラが回っててフードが外れたら隠す間もなく周知に知れ渡るような、本当にいいお花見日和だね!こんな空間に呼び出されるとか、俺に死ねって言ってるよね?遠回しどころか直球で死ね言ってるも同然だよね?バカなの?死ぬの?君らでなく俺が死ぬの?なんで?」
「い、臨也!落ち着け!頼むから落ち着いてくれ」
俺の気持ちをまったく読んでくれない狩澤さんの発言に、口外するのを堪えてたマイナス思考が炸裂した。
ドタチンが必死に宥めようとしてくるが、俺の苛立ちがおさまる筈もないから。
そうだよ俺、苛立ってるし怒ってるんだ。
この折原臨也が、あろうことかオタクで精神逝っちゃってるとはいえ、表か裏かで云えば一応表の人間に脅された挙げ句に、来たくもないお花見に強制参加させられてるなんてさ!
「言っとくけど俺は花見なんて来たくなかったんだからね!」
「まさかのツンデレっすかー!」
「違うっつーのー!」
デレがないというのに反応しやがった遊馬崎を叩きながら、ヤケクソでビールを煽る。
アルコールで体温が上がったのか、わずかにフードの中身が盛り上がって、ますます気分が盛り下がった。
ああムカつく畜生!
シズちゃんの馬鹿死ね!
――前降りが長かったが、状況は単純だ。
絶望的なまでに弱みを握られた俺は今現在、取引の交換条件としてワゴン組との花見に参加している。
これだけ。超シンプル。
が、そこまでの経緯が波瀾万丈なのだ。
聞くも涙、語るも涙だ。
なにせ俺が握られた弱みとは、ウとサと漢字一字の計三文字で表現できてしまう、ぺらいながらも殺傷力抜群の代物だ。
言い換えても、ぎが追加されるだけの――つまりうさぎ耳。
さっきヤケクソで認めたから諦めて出すけど、本当は脳内にこの単語を出すのすら憚られる程に嫌だ……けど……けど。
うん、仕方がないから認めるけど!
と、とにかく、俺は何故かウサ耳が生えてしまったの!
ウサ耳が生えた理由や時期、その他は、語っても何の実もないので省略。
本当に、苦労話以外語れるものがないんだよ……ごめん。
まぁそれで俺は、この無様な姿を見られたくないんで徹底的にウサ耳を隠してた。
しかし隠しまくっていたにもかかわらず、先月俺はうっかり……というよりかは感極まった故の自爆だったんだけれど、とにかくこのワゴン組の面々にうさぎ耳を見られてしまったのさ。
活字中毒とアイドルオタクはともかくとして、普段から二次元ラブ!ネコ耳イヌ耳萌え〜なバカオタク二人は俺のウサ耳姿に対して、回想も割愛するしかない程に大フィーバーしやがった。
レッツパーリィーとか生存戦略とか進撃しちゃったりして、マジで萌えが2000%越えちゃったりしてさ……ホントに勘弁してほしいよ。
我に返ったドタチンと田中さんが二人がかりで止めてくれた頃には、俺の黒歴史は見事に更新されてました。
黒い手が千本なくても、人は自前の暖かな手で同じ人間を貶められるのだと、色々と翻弄されながら嫌というほど学びました。
これだから人間は侮れないんだ!
愛してるとか簡単に言えなくなるくらいに、本当に……ごめん、つらすぎて冗談にもならない。
いや好きだけどね人間。
どんだけ俺を追い詰めようとも、その恨みとか憎しみとかも含めて愛しちゃうんだけどさ。
ちなみになんで俺がこれだけアニメ用語に詳しいのかといえば、最近ずっと人前に出れずに引きこもっている間にアニメを見まくったからだ。
だからこそ、あいつら二人の戯言の意味も理解できてしまって、二重の意味で汚された気分だぜ、まったく。
あ、2011年(兎年)にやってないアニメの用語を出すなとか、フィクションを台無しにするもっともかつ現実的なツッコミはナシの方向でお願いね。
さて、そんな訳で俺は一番知られてはいけないタイプの人間に自分の正体を知られてしまった。
それから二週間、俺の姿に萌えたぎった腐女子は事ある毎に俺を呼び出して、やれコスプレだやれ新刊のモデルだと、散々俺を堪能しやがった。
あ、別に「来ないなら秘密をばらすよ」みたいに脅された訳ではないし、俺も取引や見返りを要求してないよ?
うん、そんな余裕さえなかったね。
一応俺に拒否権がある状態で呼び出されてる訳だ。
しかし、だったら無視しろ断れ、なんて突っ込みはナンセンス。
たしかにドタチン達は俺の不幸な境遇を人に言わないと約束してくれたが、そういう問題ではない。
彼らががお友達感覚、むしろ生き神様な勢いで俺をもてなそうとも、俺からすれば脅迫にしか見えないよねぇ。
だからどれだけ嫌だろうが半泣きになろうが、狩澤さんからの誘いに俺は絶対に乗ったのだ。
そんで会うたびにセクハラ三昧、人間の損失を削がれまくって、ストレスから気力どころか体重まで削いでいた不憫な俺に、ついに番長ことドタチンも雷を落としてくれた。
と、これで俺が狩澤さん達から解放され、二度と会わなくて済むとかなればハッピーエンドだったんだけどね。
話はそこまで簡単ではない。
激昂するドタチンにさしものオタク共も敵わなかったが、しかしタダでは引き下がらない。
純粋な好意と萌えとやらで俺を振り回していた彼女らに悪意はなく、うさやと引き離さないで!などとガチ泣きで訴えられたら、身内に弱いドタチンも弱ってしまった。
だから俺の望んだ即面会拒絶、接触禁止なんてできないと、今度はドタチンが泣きついてきた。
それで俺の我慢の限界とオタク共の狩猟本能とやらとの妥協点の結果が、今回の花見だ。
曰く「今回一緒に遊んでくれたら、もう無理に呼び出したりはしないから!最後の思い出づくり、お願い!」だそうだ。
意味が解らない。
どんだけアニメを観ようとも、オタク……ましてや腐女子の考えることは理解不能だよ!
だがまぁ、あのまましょっちゅう呼び出される心配がなくなるなら、この際花見くらい仕方がないと来てみたのだが……予想外に人手の多い真っ昼間で俺ビックリ、的な?