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□因禁新刊の乱丁部分【折原先生のトラウマ学講座〜復習編〜】
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 ことを選んだ。
 高校はもっと静かに生活したい。少なくとも女子を巻き込みたくないという切実な願いからだ。
 さらにいえば極力不良とも関わりたくなかったため、男子校の中でも比較的学問に力を入れていて、不良が通わなさそうな学校を志望した。
 悲しいかな喧嘩三昧で授業も抜けがちだった静雄には厳しい偏差値だったが、家族や当時の教師陣による全力のサポートと必死の勉強の甲斐あって、静雄は春から今の高校に通っているわけだ。
 念願叶って合格した男子校は進学校でもあり、堅実な生徒が多いことから巷では坊ちゃん校なんて呼ばれている。
 実際のところ本当のお坊ちゃまはいないが、私立であるのでそれなりに裕福な家の子供がやって来るし、進学校ゆえ静雄が嫌う不良もいない。比較的穏やかな気質の学生が集まる、望み通りの学校だった。
 勿論いくら進学校とはいえ男子だけの生活だ。時に思春期特有の暴走を起こす生徒もいたし、共学の学校に比べればむさ苦しいし騒がしい。
 こうした雰囲気は物静かな静雄には合わない部分もあったが、下手に異性がいるよりかはずっと気楽で、全体的には過ごしやすい環境のはずだった。筈だったのだ。
 だが、しかし、現実は無情だ。
 実際は阿鼻叫喚の嵐。
 飛びまくる机に黒板。斬られまくってつぎはぎだらけの静雄の制服。まごうことなき地獄絵図。
 苦労の果てにあったのはこんな毎日だ。
 そう、すべては静雄の前に臨也が現れたからだった。


(三)
 平和島静雄には天敵がいる。
 この世で一番嫌いな人間で、そして自分の高校生活を滅茶苦茶にした元凶でもあった。
 その男はあろうことか静雄が通う高校に勤めている保険医で、名を折原臨也といった。
 臨也は静雄が高校に入学した初日、初めて顔を合わせた段階でムカつく男だった。
 理由は解らない。ただ静雄は相手を一目見るなり気に喰わないと思った。見た目は無害そのもの。にこやかに笑ってい



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て、よく通る爽やかな声で業務連絡をしていたというのに、この男はロクでもないと直感してしまった。
 とはいえ彼等は新入生と学校の保険医。顔を合わせたといっても入学式後のオリエンテーションで、檀上から折原が自己紹介をしただけだ。普通ならば静雄が保健室に行かなければ、それ以上接点を持つこともない薄い関係だった。
 その希薄な関係性を、いきなり、臨也がぶち壊した。
 ――こんにちは、シズちゃん。
 何故か静雄に話し掛けてきた臨也は、反応に困った静雄を見るなり、取り出したナイフで斬りつけてきたのだ。
 意味がわからない。
 何故いきなり斬りつけられたのか、半年経った今でも静雄は分かっていない。
 分かっているのは、臨也がロクでもない人間だということと、自分の直感は正しかったという事実だけだ。
 その事実だけで充分だと、静雄も相手が教育者であろうと容赦なく反撃したのも問題だが、以来二人は殺し合いじみた派手な喧嘩を繰り返している。
 実際、折原臨也は大変に歪んだ性格で、人間の善徳も悪徳も愛していると公言する変人だった。
 ただ思うだけなら変態的思考の持ち主というだけの、外見が整いまくった一保険医で終わったことだろう。しかし折原臨也はそんじょそこらの変人とは違った。
 なにせ彼は保険医という仕事に就いていながら、裏でいたいけな少年達を嵌めて遊んでいるのだ。しかも自分の趣味で。
 例えば嘘の情報を流して生徒間の友情を壊したり、行事の際はわざとハプニングを起こさせてパニックになる人間模様を観察したりと、例を挙げればキリがない。
 流石にナイフで直接攻撃するのは静雄に対してだけだが、精神攻撃という意味でなら他の生徒にも容赦がない。もちろん静雄に対しても、何度もあくどいイタズラを仕掛けてきた。
 まったくもって、酷い男だ。
 とはいえ臨也は非常に頭もよかったので、こうした一面が世間様の目に触れないよう上手く立ち回っていた。
 立ち回るもなにも、静雄に対する大人らしからぬ暴言策略ナイフでの攻撃(どう考えても銃刀法違反だ)を臨也が隠す素振りは見せず、学内だとはいえ、堂々としたものなのだが。これでどうしてバレないのか静雄は疑問だった。
 だが本当に不思議なことに、二人の喧嘩が表立って問題にされたことは一度もない。


 
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