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□年明蕎麦をご一緒に
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あけましておめでとうございます!
特に内容はありませんが、年賀小咄です。
今年も拙宅をよろしくお願いいたします!
「さてシズちゃん問題です」
「やだ」
「やだじゃないよね。俺まだ何も言ってないし」
「嫌だ」
「話聞けよ」
冷静に突っ込むと、俺を抱きしめるシズちゃんの力が強まった。やめて、肩痛い。
シズちゃんが押しかけてきて10分は経っただろうか。
俺は今現在、シズちゃんに押し倒されてたりする。しかも二の腕からがっしりホールドされてて、ええまったく身動きできません。
深夜に押しかけてきたシズちゃんは、酔っ払いのアホ丸出し赤面顔のままズカズカ入り込み、華麗に俺に抱き着いた。
そりゃあもう、なんの躊躇も予備動作もなく、鮮やかに俺に倒れてきたね。
おかげで俺は腰をしたたかに打ったさ。ちなみに頭と背中はシズちゃんの手がクッションになって痛くないとか、何の救いにもならない。
「あーったく、これだから話の通じない化物は嫌なんだよ」
「嫌とか言うな馬鹿」
「先に言ったのはシズちゃんでしょ。馬鹿に馬鹿とか言われたくないんですけど」
「馬鹿って言うな」
「あー!女々しいんだよ離せ!」
どれだけ飲んだか知らないが、シズちゃんが酔うと面倒臭いだなんて、そんな情報知りたくなかった。
早くどいてってば。
俺は蕎麦を食うんだ。年越蕎麦は年内に食べなければ意味がない。
波江さんお手製の蕎麦つゆが俺を待っている!
「早くしないと年越しちゃうよ!」
付けっぱなしのテレビからは、いよいよカウントダウンの空気が漂っている。
だが俺がもがけばもがく程、シズちゃんは俺にしがみついて離れない。
どころか顔を俺の首元にうずめて、一切顔を上げようとはしない。そして俺はますます身動きつかなくなる。
何これ?関節技?
そういえばシズちゃん格闘技好きだったよね。年末特番のチャンピオン戦、さっき録画してたんだ。
「シズちゃん、今離せば特別に格闘技の」
「黙れ。ウザい。聞きたくない」
「え?普通に酷いよシズちゃん」
酔ってるからか反応がいつもと違う。
酷い、せっかく録画観せてあげようとしたのに。
それにしても困ったなぁ。これだけ密着されてると下手なこと言えないし。
シズちゃんキレたら、俺は圧死だよね?
さてどうしたものか。
「……だろ」
「は?」
「どうせくだらなくて難しいこと言って、俺なんか言いくるめて逃げる気なんだろ」
「逃げるも何も、ここ俺の家だから」
「俺を捨てる気かー!」
いきなり叫ぶとか何事だ。
人を押し潰しといてわんわん泣くな。重いんだよアホ。
あとお願いだから鼻水垂らさないでね。
ああもうホント、情けない奴。
「シーズーちゃん」
よしよしと、不自由な腕でシズちゃんの髪を掻き回してやる。
俺ってどれだけ優しいんだ。
「俺は逃げないよ」
「嘘つくな」
「逃げないって」
「やだ、離れたくない」
「……クス」
「笑うなっ……よ」
「ごめんごめん」
だっておかしいんだもの。
ムカつくなあ、シズちゃんで笑い納めかよ。
ああ悔しい。
「シズちゃん。顔あげて」
髪を撫でながらゆっくり何度もお願いすれば、おずおずとシズちゃんは顔を上げる。
不安そうに揺れる上目遣い。
俺が下敷きなのに、君が俺を見上げてどうするのさ。
やっと見えたシズちゃんの顔は涙と鼻水でグチャグチャだ。
ああまったく、ブッサイクで笑っちゃう。
「間抜けな顔」
「ふッう〜〜」
「ほらほら、泣かないでこっち見てて」
シズちゃんが泣くと、君の瞳に映る俺まで歪んで見えちゃうんだよ?泣き止んでさ。
でも涙がボロボロこぼれるシズちゃんの瞳は、蜂蜜みたいにとろけてるね。
舐めたら甘いかな?なんて馬鹿なこと考えてたら、テレビから新年の挨拶が聞こえてきた。
「ねぇシズちゃん」
見つめ合ったまま年を跨いだなんて、笑うしかないね。
結局シズちゃんのせいで年越蕎麦は食べられなかったし、腰は痛い。あと体重掛けられて地味に脚が痺れてきた。
シズちゃんが鼻をすする音が近い。
テレビの音が遠い。
静かだ。
俺の年越しライフは目茶苦茶だ。
「離してよ」
「……俺と一緒は嫌か?」
「そうだね、このままってのは嫌だなあ」
蜂蜜みたいな瞳がますます歪んで、見目だけは好みだったシズちゃんの顔も歪む。
おもしろいね、笑っちゃう。
俺に首ったけ。俺に夢中。
こんなシズちゃん見たら、笑うしかないよ。
「だって」
だから笑いながらほっぺにキスしてやった。
え?なんて、きょとんと目を丸めて首を傾げるとか、どんな乙女だバカシズめ。
おかげで笑いを堪えるのが大変なんだよ。
「シズちゃんは顔を洗って、俺に土下座して謝るんだよ」
去年の最後に見たのはシズちゃんの顔。
今年初めに見たのもシズちゃんの顔。
涙と鼻水でみっともないったらない。だから早く洗ってきて。
そしていい加減謝れ。
「そして」
付けっぱなしのテレビは消してしまおう。
取り寄せた蕎麦を早く茹でよう。
「俺の茹でた年明け蕎麦を食べるんでしょ?」
さぁ、お蕎麦を茹でようか。
【年明け蕎麦をご一緒に】
取り寄せた蕎麦は二人前。
君が食べないと減らないんだって。だから録画した特番を観ながら食べよう。
幽君が出るバラエティーとタイトル戦、どっちを先に観ようか?どっちも録ってあげてたんだ、感謝してよ。
朝になったら特別にお節もご馳走しよう。その代わり、シズちゃんが餅ついてね。
「さぁシズちゃん」
さっさと顔を洗って、そして俺に謝って。
遅刻して、ごめんなさいって。
俺、待ちくたびれた。
酔っ払わないと、恥ずかしくて俺に会いに来れない?
約束してないと、会いには来ないの?
こんだけ俺を好きなくせに、素面じゃ一緒にカウントダウンも出来ないの?
それで俺を待ちぼうけにする気だった?
ふざけんな。
ああ悔しい。すごく悔しい。
「一緒にお蕎麦食べよう」
そんな君がムカつくけど好き。
END
果てしなくイザシズっぽいシズイザでした(笑)むしろシズイザシズ?
約束はしてないけど、臨也はシズちゃんがいつ来てもいいように準備して待ってたとか。
むしろ臨也さんの中ではシズちゃん来るの確定(しかし無意識)。
要は仲良しなんですね。
そんな年またぎ話でしたー(笑)