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□届け、この想い
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嫌だ。
何この仕打ち。
俺何かした?何かしたの?
毎日色々やらかしてるけど、今日は何もしてなかったよ。
……たぶん。



「よーし一息でいってみようか〜」

「カニ鍋だよ鍋。カニさんたっぷり」

「赤林さん、ご馳走様です」

「いいんだよー杏里ちゃん。費用は全部、情報屋さん持ちだから」

「よーし、一気!一気!一気!」

「正臣、掛け声は違うと思うよ」



何この羞恥?
プレイ?プレイなのか?



「アッハッハ!臨兄震えてて可愛い!チワワみたい」

「輪……愛……」

「イザイザ、このリングも似合ってるねー」

「首輪みたいでお似合いよ」

「おお!美人秘書さんから罵られるなんて羨ましいっす」

「ほら情報屋さん、さっさとおやりなさい」

「臨也早く吹きなよ」



いやいやいやいや!
だから何!?
ねぇこの状況なんなんですか?



「観念するんだな」



ドタチンまで俺を見捨てるの!?



「さっさと消しやがれ」



俺の背後、十センチの距離から低くて凄みのある、お馴染みの声がする。
あんまり近くて、耳がこそばゆいんだよ!



「なんで……」

「あ?」



なんで、なんで。なんでなんでなんでなんで!



「なんでシズちゃんにだっこされてんの俺!?」


「そりゃあお前の……誕生日だからだろ」


「意味わかんない!」



本気でなんなんでしょうかこの状況。
人間観察して事務所兼自宅に帰ってくると、何故だか大量の人間が待ち構えてました。
新羅に運び屋、愚妹に来良の学生やドタチン達。果ては粟楠会!
このカオスな顔ぶれに戸惑ってたら、あれよあれよのうちにシズちゃんに拘束されました。
つか、なんでいんだよシズちゃん。



「黙ってろ。こうでもしねえと、テメェ逃げるだろ」

「当たり前だ!何これなんなの一体!どんなプレイだよおかしいよ!」

『こら!静雄に謝れ。我慢してお前を抱いてくれてるんだ』

「だからそれがおかしいんだって!」



もう一度言います。
シズちゃんに拘束されました。
しかも膝だっこで。
乗りたくもないシズちゃんの膝の上にいたりします。
どんな拷問だよ!?



「何が不満なんだ?」

「全部さ!特にこれ!なんで君から膝だっこされてんの俺?捕まえるだけなら、他に方法なんていくらでも痛っ!痛い痛いイタタタ!腹!腹わた出るから力入れるな」

「臨也さん、ロウソク溶けてます!ケーキ食べれなくなっちゃいますよ」

「そうそう、25本もさしたんだから豪快に消してくれないと。そしてぇ、突然の暗闇に不安になる杏里の隣りで優しく手を繋ぐ俺!手と手のぬくもり、高まる鼓動というナイスシチュエーション」



帝人君、君のその空気を読めない合理的思考は嫌いじゃないよ。
でも敢えて言いたい。
現在進行形で死地にいる俺よりケーキの心配かよ!
あと正臣君、君なんで素で帝人君の前にいるのかな?
杏里ちゃんにセクハラしてるとか、どんだけ平和なんだよ畜生!
君らはぎくしゃくしてないと、つまらないんだって。



「もう、正臣は浮気者だなぁ」

「って!沙樹ちゃんまでいるの?」

「はい。来ちゃいました」



なんで?なんでこんなに勢揃いなんだ?なんで皆、こんなに仲良く……



「だって今日は臨兄のお誕生会だもんね!」

「皆……祝……」

「姉さんの上司だから、一応祝いに来た。あと首を返してくれ」

「誠二さん優しい!私の料理は誠二さんの為だけですけど、今日は誠二さんの優しさに免じて、特別にご馳走しちゃいます」

「料理は苦手ですけど、私もお手伝いしました……お口に合えばいいんですけど」

「そんな!園原さんの手料理が食べられるなんて嬉しいよ!」

「そうそう!しかもセルティお手製のカニ玉もあるんだ!これを食べたら君だって改過自新して人生をやり直せるさ」

「カニさんは沢山あるからね〜。遠慮せずに食べな」

「若い衆に密ゅ……市場で仕入れさせたんで新鮮ですよ」

「密輸!密輸って言ったでしょ?四木さん!」

「細かい事を気にするなど貴方らしくもない」

「まー俺とかヴァローナまで来てよかったんか分かんないが、タダ飯タダ酒って聞いたんでな」

「本日の費用、これ全て折原臨也が支払い精算。皆は会費無料で万々歳」

「……色々ツッコミたいだろうが諦めろ。今日は露西亜寿司が店ごと出張してくれたんだ、せっかくだから割り切って楽しんじまえよ。今日は俺らも飲む」

「お!門田君と飲むの久しぶりだなぁ」

「つーかお前、他の奴と飲むのか?」

「先生はいっつも白衣だからねー。普通のお店じゃ飲めないよね」

「ハッ!まさか今日こそ白衣を脱いで、本当の戦闘能力が!?」

「いやいや、やっぱり白衣の下にはメスがゴソッと仕込んであって……」

「そんなのはどうでもいいが、ルリちゃんが後から来るって本当か!?」

『本当だ。後で羽島幽平と一緒に来るそうだ』

「ヨッシャー!」



…………。
お前ら祝う気ないだろ絶対。
確実に俺への嫌がらせだな!
なんだよこれ……わざわざ人の誕生日に虐めんなし!
今までの恨みをここで晴らす気だな。



「イザーヤ暗い顔良くないネー。今日はマグロの解体ショーあるよー。食べるいいよー」

「五月蝿い五月蝿い五月蝿い!その金は全部俺持ちなんだろ!?ふざけるな!」

「だってアンタ、どーせ今年も俺らに迷惑かけるんだろ。だったら誕生日祝ってやる代わりに、美味いもんくらいご馳走してくれって話さ」

「正臣君ひどい……アパートの契約打ち切るよ!」

「パワハラはやめなさい。それにいいじゃない。金なら余ってるんだから」

「波江さんまで……!」



まさか波江さんにまで裏切られるとは。
もうやだ。なんか泣きたいかも。



「あっ獅子崎先輩から祝電届いてるよ」

「九十九屋からもメールが来てるわ」

「父さん母さんからの伝言もあるよん」

「全……読……」

「あ!歌うたわなきゃだよ皆!」

「いざやお兄ちゃんおめでとう!」

「その、臨也さん、おめでとうございます」

「罪歌もおめでとうって言ってます」

「おめでとさん。大人になったんだから、あんま静雄にちょっかいかけないでくれよ」

「折原臨也、本日より25歳。四捨五入すれば30歳。これは一般に三十路と言われ人間として成熟、落ち着きを持つ年齢と評されます」

「早いもんです。情報屋駆け出しの餓鬼が、もう四捨五入で三十路ですか」

「おじちゃんの仲間入りだねー」



嫌だ嫌だ恥ずかしい!
皆して俺を中年扱いするな!
俺は永遠の21歳なんだよ!
それにこんな歳になってベッタベタなお誕生会とか、本当に嫌がらせでしかないし。



「もうやだ死にたい」

「あ?ふざけんなよ。主役なんだから今は生きてろ」

「ハハ!シズちゃんから生きろとか言われるなんて奇跡だね。それも嫌がらせか」

「……まーな。駄目人間な臨也君は、人からの好意なんて免疫ないんだろ?だからもっと祝福されて、恥ずかしい思いしやがれ」

「だからってここまでする?こんな沢山集まる必要なんかないし。君だって、そんな嫌がらせの為だけに大っ嫌いな俺を抱くとか、やり過ぎだよ」

「……こうでもしねーと伝わらねえだろ」

「だからって」

「おらっよそ見してねーで見てろ」



シズちゃんから強引に前を向かされる。
抵抗したくても、両手は後ろでやっぱりシズちゃんに拘束されてるから逃げらんない。
だから目の前にある、でかでかと掛けられた【HAPPY BIRTHDAY】の文字をハッキリ見せられてしまった。
いまどき小学生でも作らないような折り紙のリングが壁に飾られて、いつもの事務所のシックさは皆無。


首には同じく手作りのチェーンが、制作者な茜ちゃんから掛けられた。
四木さんや赤林さんの怖い眼光が光ってるから外せない。まさしく首輪だよね。
つーかみんな、主役をほっぽって騒ぎすぎ。




でも本当に、馬鹿馬鹿しいくらいお誕生会だ。



俺が仲たがいさせたはずの高校生達も、強面のヤクザも、変態も人外も、たった今着いたアイドルとそのファンも、オタクも外国人もドレッドも幼女も。
大人数で、和気藹々と楽しんでる。

そして沢山のご馳走、明るい音楽。
今も大トロが今握られてて、料理はどれもこれも好物ばっか。
ケーキは手作りとは思えないほど綺麗なデコレーションだ。
部屋の奥には大小様々な箱があって、リボンがかかったそれらは、色んな意味で開けたくない。
……爆弾が入ってないといいな。



本当に本当に、笑っちゃうほどにお誕生日のパーティーだ。



「こうでもしねえと、伝わらねーだろ」



また言って、シズちゃんがぎゅって俺を抱きしめた。
その心臓がどっくんどっくんいってて、あったかくて。


おかしいなぁ?
恥ずかしいし屈辱的だし納得できないし悔しいのに、


「そんなに力入れられたら苦しいよ」



苦しいくらい、あったかいよシズちゃん。
思わず泣きたくなるくらいには。



「おう」

「放してよ」

「放さねー」

「逃げないから」

「逃げるだろ」

「逃げないって」

「でも駄目だ」

「なんでだよ」

「誕生日だからだ」

「誕生日だからかよ」

「ああ、誕生日だからだ」

「ならさ、なんか変な気がするのも誕生日だから?」

「たぶんな」

「つーか寿司食べたい」

「食べろよ」

「シズちゃんのせいで食べられないの」

「食べさせてもらえ」

「嫌だ恥ずかしい。つか誰が食べさせてくれんのさ?」

「適当に頼め」

「頼んだら食わせてくれんのかよ」

「たぶんな」

「誕生日だから?」

「誕生日だから」

「……誰も食べさせてくれなかったら怒るよ」

「そりゃー自業自得だ」

「え?日頃の行いが悪いって言いたいの?」

「事実だろ」

「なんだよ誕生日くらい甘やかせよ」

「なら甘えろよ」

「嫌だよ」

「なら甘やかす」

「意地悪」

「おう」

「シズちゃんの馬鹿」

「てめぇもな」


シズちゃんはまた、俺をぎゅって抱きしめた。




(どうせ素直に祝っても受け取らないんだろ)

(だったら)

(嫌がらせにするしかないじゃないか)



(だから嫌がらせのまんま、強引に祝福してやる)



(全身使って、抱きしめて、)



(この気持ちが、少しでも届くように)



(最悪に捻くれ者に届くように)



「臨也……」

「何?」



「誕生日おめでとう」



恥ずかしそうな顔だったり、しかめっつらだったり、無表情だったり笑顔だったり。
思い思いの色んな表情で、それでもその場にいる全員がシズちゃんに続く。



「おめでとう!」



ああ本当に、嬉しくなんてないんだったら!!





(HAPPY BIRTHDAY臨也!君が生まれてきたことに感謝を!この想いよ、届け、君に!)



 


END


 

臨也さんHAPPY BIRTHDAY!
貴方が生まれてきたことに、心からの感謝と祝福を!

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