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□Are your answer ?
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霧雨の夜だった。
そこに在るのは一人の男と一人の男、そして携帯電話がひとつ。
【Are your answer ?】
霧雨が空気を濡らす中、耳障りな音が濡れた空気を揺らしている。
コンクリートと人の血肉が奏でる、ひどく耳障りな音だ。
骨が折れる、砕ける。
叫ぶ。叫ぶ。
泣いて、啜り泣いて、呻く。
そして、靴底が擦れる音。
リズム感のかけらもないアップテンポな演奏は、下品な笑い声を伴奏に。
いつしか楽器である男の叫び声もなくなり、ただ啜り泣く男と、その男を蹴り続ける男の靴音だけが響く。
それでも笑い声は嗤い続け、楽器である男は微かな抵抗を続けた。
――月明かりが出るまでは。
「 」
雨が止んで雲間が晴れてくれば、現れるのは美しい十六夜。
唐突に、男は男に何事か囁いた。
自分が壊し続けた男に、一言。
そうして――音も無く、男は倒れ伏した。
月明かりが美しい夜だ。
「ヒャハハハ!テメェの言った通りにしたら、ホントに壊れちまった」
心底愉快そうに笑い、男――泉井蘭は既に意識を失っている男を踏み付けた。
ぐりぐりとぐりぐりと。
『愉しそうに人を壊すね』
電話越しの人物は感心したように言った。
『いっそ清々しいよ』
電話越しに。
「なーに、ほざいてんだ?」
最後のひと蹴りを加え、蘭は靴底を擦りながら歩きだす。
「人を壊すのが好きなのはお前だろ?」
『まさか!俺は人間を愛してるんだよ?』
月明かりが美しい夜だ。
思わず散歩がしたくなるような、そんな美しい夜。
蘭はずりずりとだらし無く歩きだした。
ずりずりとずりずりと。
「でもお前が言えっつった一言で、あいつはさっさとくたばっちまったぜぇ?よくもまぁ、あんだけ簡単に人を堕とせるもんだ」
『それも愛だよ』
電話越しの声は、まるで月明かりのように明朗で明快で。
その声音はどこまでも、違和感を覚える程に美しい。
『俺は人間を壊したい訳じゃない。壊れた人間も、壊れる瞬間の人間の姿も愛してるだけさ。愛してるから、その人間の心に一番残る言葉が思い付くんだよ』
月明かりが美しい夜だ。
見知った相手との会話も弾む、そんな夜。
「胸糞ワリー野郎だぜ」
会話は弾む。
「俺のことも愛してるってか?」
弾む弾む。
『勿論さ』
淀みなく。
「ハッ!よく言うぜ」
『本当だって。君のイカレ具合は愛おしい』
「そんで利用するだけ利用して、堕とすだけ堕として、どこまでイカレちまうのか観察しようってか?」
そりゃー胸糞ワリーな、と冗談のように蘭は笑い飛ばして、階段を二段飛ばしで下った。
タンタンとタンタンと。
『なら君は、どうして俺の誘いに乗ったのかな?』
からかうような問い掛けに蘭はニヤリと嗤った。
「さーて楽しいクイズの時間です!」
月明かりが美しい夜だ。
歌い上げたくなるような、そんな夜。
蘭は高々と、心底楽しそうに宣言した。
歌うように歌うように。
「一、遊馬崎を殺すため」
月明かりが美しい夜だ。
「二、面白おかしい馬鹿騒ぎがしたいから」
軽やかなステップを踏みたくなるような、そんな夜。
「三、俺より外道で悪趣味で、救いようがない残念な人間が」
軽やかなステップを踏んで、階段を跳び上がる靴音。
タンタンとタンタンと。
「俺の目の前で」
軽やかに。
淡々と。
「さらにイカレて、壊れてくのが見たいから」
足音が止まった。
「『ハハハハハハハハッ』」
始終愉しそうな蘭の声。
それよりもなお、楽しそうに楽しそうに楽しそうに、電話越しの声は笑った。
深夜のコンクリートは響く、響く、響く。
階段を飛び下りる靴音が。
階段を跳ね上がる軽やかなステップが。
そして、二つの笑い声が――
『それはまた……』
やや経って、囁くような声が蘭の右の鼓膜を震わした。
蘭が右手に持つ携帯電話は、感度良好で。
そして、
「外れるのを承知で答えたくなるクイズだ」
左の鼓膜は、歌うような声を拾うのだ。
月明かりの美しい夜。
そこに在るのは一人の男と独りの男、そして二つの携帯電話。
「さーて折原臨也さんよぉ?」
今泉蘭は下る。
タンタンと。
そして靴底を擦らしながら、なおも詰め寄る。
ずりずりと。
月明かりに照らされる、吐息さえも触れ合う距離。
折原臨也の両の鼓膜は――震える。
「お前の答えは?」
愉しいクイズを始めよう――そんな美しい夜。
END
星波様リクエストの蘭臨でした。
意外にも書きやすかったです!
これでも甘々です(え?)
シズイザよりラブラブですね(当サイト比)
星波様、リクエストくださりありがとうございました!