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□麦畑に抱かれて
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【麦畑に抱かれて】



 視界が金色で埋まる。
まるで麦畑にいるようだと臨也は思った。
 もちろん池袋で生まれ育った臨也は、見渡す限りの麦畑など見たこともない。
 それでも、まるで麦畑で寝っころがっているようだと思った。

「吐き気がする」

穏やかな陽の光が窓から差し込む。
 黄金色に輝く。
臨也を見下ろす男の金色の髪を照らして、淡い光が輝く。
柔らかな黄金色が、臨也の視界を抱く。

「気持ち悪いんだよ」

ぽつりと呟く声はささやかで、普段の嘘くさいほど明朗な声はどこへ行ったのか。
 だがそれで良いと、臨也は自分で思っていた。
この男はどうせ何も言わない。ならばこれは、独り言と同じ。
 ただの、戯れ事だった。

「ホーント、調子狂う。その顔、その眼で俺を見つめるとか、本当におかしいよ」

 こんな暴言を吐いても男は怒らない。どころか、臨也の髪を優しく梳き始めた。
穏やかな光、穏やかな手、穏やかなひと時。
 臨也は一度瞼を閉じ、そして開いた。
 変わらず男は臨也を見下ろしていて、変わらず臨也は男に膝枕をされたままで。変わらず男は、微笑んでいた。

「つまんない」

 ぽつりと呟いた声は、先程よりもはっきりとしていた。
 隠されもしない苛立ちが、こもった声だ。

「君はつまらない」

 男は変わらない。変わらず膝は温かく、手は優しく、眼差しは穏やかだ。

「シズちゃんと同じ手で、同じ顔で、俺に優しくするとかおかしいよ」

「そうか」

 初めて男――津軽は口を開いた。
 低い、臨也が聞き慣れた声。
 穏やかな、臨也が聞き慣れない声音。

「化け物のくせに」

 静雄ならば確実にキレて暴れ出すであろう言葉。
 なれど津軽は微笑むばかりだ。

「言っておくけど、どれだけ胡麻をすっても無駄だよ。俺が愛してるのは人間だけだ。化け物のコピーの君なんて、愛してやんないよ」

「わかってる」

 津軽は微笑む。臨也の髪を梳いて、額をなでて。片手は、臨也のそれと繋がれたまま。

「俺は人間でない。だから人間の感情はわかってない」

 ゆっくりと津軽は言葉を紡ぐ。

「でも……うん」

 ゆっくりと、きっと考えはまとまらないままなのだろうが、それでも、津軽は己の想いを紡いだ。

「俺は臨也が好きだ」

 言って、変わらず臨也の髪を撫でた。

「何それ?」

 不機嫌な感情を隠そうともせず、けれど声は変わらず小さいままに罵る。
 ただ素直に、臨也は声を発する。

「好きとか嫌いとか、人間の真似をするなんて生意気」

 罵る。力無く罵る。
 しかし臨也の体は、変わらず男の膝の上で横たわったまま。顔をしかめたまま、男に頭を撫でられ続ける。
 そして片手は、男のそれと繋がれたままだ。

「君なんて……大っ嫌い」

 ゆるゆると瞼を閉じる。
 脳裏に浮かぶのは男と同じ顔、同じ眼、同じ手を持った存在。
 決して臨也を見つめず、臨也を触れず、臨也を愛さない男。

「俺は臨也を愛してる」

 瞼を閉じても、変わらず男の膝のぬくもりが、優しい手の動きが、やわらかな声音が臨也を放さない。
 瞳を閉じても、黄金色が臨也を抱く。



――ああ、麦畑にいるようだ。



「愛してる」



 臨也の片手は、今も津軽の羽織りを握ったまま――


END


 

山なしオチなし意味なしな津臨文でした。
一応、静(←)臨←津のような関係かと。
津臨大好きです。もっと増えないかと切実に期待。
ちなみに最後の「愛してる」は津軽が臨也にか、臨也が津軽にか、臨也が静雄に言ったかはご想像にお任せします。

プチオフ会にて星波様に捧げました。
星波様、駄文で本当に失礼しましたー!!

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