drrr 小
□絵文字は素直
1ページ/1ページ
「いぃぃーざぁぁーやぁぁーくうぅぅぅん!ひーねーりー潰しましょぉおー!!」
俺は平和が大好きだ。そして暴力は大嫌いだ。
そんな俺に暴力を奮わせようってんだ、このノミ蟲は殺されても仕方がねえよな。
だって性懲りもなく池袋に来やがったんだ。殺されても文句はないはずだ。
つか文句あっても殺す。潰す!
俺は普段通り、そこらのガードレールを引っぺがした。
「性懲りもなく池袋に来やがって!」
そうしてガードレールを構えたところで、ふと奴の違和感に気づいた。
“やあシズちゃん。相変わらずの馬鹿力だね!バカなの?死ぬの?死ね"
と、普段ならば返ってくるはずの胸糞悪ィ声がしない。
……って!?
条件反射で思わず想像しちまったじゃねえか!
気持ち悪ィー!!
「こんな気持ち悪い幻聴聞かせるなんて、殺しても仕方がないよなぁ!」
「ッ!?」
俺の言葉に臨也は眉を寄せ、はぁ?ってカンジに顔をしかめた。
そりゃあそうだろう。奴からすれば意味不明なはずだ。でもわざわざ説明する気も起きない。
「死ね!」
トドメを刺そうとガードレールを投げた瞬間、ポケットに入れっぱなしだった携帯が鳴り出した。
「あ゛?」
突然の事で手元が狂い、ノミ蟲に直撃するはずだったガードレールは明後日の方向へ吹っ飛んでしまう。
だが俺はそんな事に構ってやいられない。
いま鳴っている着メロは、幽が主演の映画の主題歌。これは俺が唯一メール受信音に指定しているもので、つまりは弟限定の着メロだ。
「なんだ珍しいな」
幽からのメールなど珍しい。一瞬ノミ蟲の事も忘れ、急いで携帯の新着メールを開く。
そして携帯のディスプレイから盛大に裏切られた。
From.素敵で無敵な情報屋さん
件名.声出ない
風邪ひいて声出ないんだよねー
そんなに怒らないでよ。
変な顔してるー
ププ(`ε´)=☆
「うぜえ!」
疑問や具体的な文句の前に、まず叫んだのはその一言だ。心底うざい。
目に飛び込んできた気色の悪い文字の羅列に、かっと血が昇った。
「なんだこれ!俺は手前なんぞ登録した覚えはねぇぞ!?」
しかも幽専用の着メロが流れるなど解せない。
「俺の携帯を弄りやがったな!」
確かに臨也は風邪をひいているらしく、簡単に捕まった。だが病人だろうが容赦なしで襟首を掴み上げる。
このまま捻り潰そうとしたところで、またしても俺の携帯が鳴り出した。
ダーダッダッ!ダッダッダーダッダッダー♪
今度は昔懐かしのダークベーダのテーマだ。しかも音量がでかい。
俺達から離れていた野次馬も、全員びくっと反応した。
俺も驚いて、咄嗟に臨也を捕まえていた手を放してしまった。臨也はそのままその場にうずくまり、激しく咳込む。
ほんの1ミクロンだけ悪いなと思ったが、正直自業自得だ。普段の行いが悪いからだクソ蟲め。
こんなふざけた着メロなど、もちろん設定した覚えはない。
嫌な予感を覚えながら、一応メールを開く。
From.永遠の21歳
件名.鈍いね
俺が君の携帯を弄ったの気づいてなかったの?
どんだけ鈍いんだろうね(爆笑)
せっかくだから着メロもダウンロードしてあげたよ♪
ところでダークベーダって格好いいよね。間抜けなマスクだけど。
「うぜぇぇえええ!」
残念ながら予想通りに臨也からのメールだった。
ご丁寧に登録名が違う。何が21歳だ。俺より先に生まれたくせに、年考えろ。
「あとダークべーダのマスクを馬鹿にすんな!」
「ぶっ!」
他にも色々突っ込みたかったが、これは許せないから叫ぶと、臨也が吹き出した。
声は出ないものの、肩を震わせて笑っている。喉を労れよ病人。
「何がおかしいんだよ。いーざーやーくーん?」
アン○ンマーン!新しい顔よー♪
「うぉあ?!」
返事の変わりに俺の携帯が喋った。
ほのぼのするくらいには懐かしい声とフレーズだが、携帯から声がするなど初めての経験で、マジでビビった。こういうのは着メロでなくて、着ボイスとか言うんだっけか?
「確認しなくても分かる。どうせ手前だろ」
臨也は返事の代わりに、にんまりと例の糞ムカつく笑顔でひとつ頷いた。
そして携帯を開くようにジェスチャーで俺を促す。
「…………」
どうやら本気で声は出ないらしい。五月蝿い声がしないのはいいもんだ。
というかこいつ、セルティ程じゃねえがメール打つの早いな。
などとノミ蟲相手に感心してしまい、ついつい律儀にメールを読んでしまった。
From.Izaya Orihara
件名.!
ちょっ……!そこ突っ込むの!?
マジウケるんですけど。
こっちは喉痛くて辛いってのに、笑わせないでくれない?
アハハハハハハハハハ!
「うっせ!」
俺は今日、生まれて初めて肉声より五月蝿いメールというもんを見た。
嗚呼、ノミ蟲の高笑いが聞こえる。幻聴のはずなのに、メールの本文から高々と聞こえた。ありえないのはお前だろ。
あとセルティとのやり取りと違って、こいつの場合はワンテンポずれてくるあたりが、さらにイラッとする。
そもそもなんで俺は、こいつからのメールなんかに付き合っちまったんだ!?
ミシッ
手から不吉な音がした。
あっと思い、急いで力を抜く。
幸い携帯は壊れていなかった。奇跡だ。ほっとしつつ、そのまま深呼吸をする。
リラックスだリラックス。
この携帯は幽がイメージキャラを勤めている新機種で、先日携帯を壊したばかりの俺に幽が渡してくれた、大事な大事な携帯なんだ。
ノミ蟲ごときのために壊してなるものか!
「くっそ!手前のアドレスなんぞ全部着拒にしてやらぁ。……いや、その前にてめぇを殺して存在自体を拒絶してやる」
うちゅ〜う戦艦 ヤーマー○ッタタ〜♪
「お前いくつケータイ持ってんだよ!」
今度はヤ○トのテーマソングがきた。
これで着メロと着ボイスと着うたをコンプリートだ。嬉しくねぇ。
つーか着うたって着メロより高いんだよな?
これも勝手にダウンロードしてたんだとしたら、一回殺すだけでは気が済まない。
ダウンロード代10円毎に一殺しだ。
「このメールが最後だかんな」
とはいえ、どれだけムカつくとしても送られたメールは無視できない。
文字と会話でのやり取りをセルティと普段からやっているからか、差し出された文章は条件反射で読んでしまう。
そんな性分に自分で苛立ちながら、仕方なくメールを開いた。
もちろん、読み終わったらすぐに臨也を殺せるよう、脇にあった「止まれ」の標識を掴みながら。
From. 奈倉
件名.呆れたのはこっちの台詞
自分のケータイくらいチェックしろし。
他にも懐かしのアニソンをダウンロードしといてあげたから(^□^)
俺って優しーい!
それじゃあ、お馬鹿で化け物なシズちゃんに構ってあげる暇はないんで。
バイバイキーン( ^^)Y☆
「あ゙あ!てめぇこそ馬鹿だろ。誰だよ奈倉っ……てぇ……」
怒り心頭。やっぱり読むんじゃなかった。だから殺そう、さて殺そうと、勢いよく顔を上げて怒鳴りつけたところ……当の臨也は姿形も見えなかった。
視線を右向け右。前方方向、全力で駆ける臨也の後ろ姿を確認。
「待て!……ッチ!」
急いで追いかけようとしたら、またしても胸ポケットの携帯電話が鳴り出した。
今度は初期設定のままの着信音だ。
それに気を取られ、臨也の姿を見失ってしまった。
「クソ!逃げ足は変わんねぇのかよ」
病人だからと油断していた。
今から追い掛ければ追いつくかもしれないと迷ったが、結局は諦めて届いたメールを開く。
立て続けにメールを受け取ったからか、妙な義務感が芽生えてしまった。思えば律儀にメールを読んでいたから、あいつにまんまと逃げられたんだがな。
複雑な思いで新着メールを確認すれば、送り主は登録すらされていない見知らぬアドレスだった。
件名もない。
てっきり臨也からだと思っていたので、正直意外だ。
「誰だよこんな時に」
アドレス変更か迷惑メールか。どちらにせよタイミングの悪さにキレてしまいそうだ。
イライラしつつも、仕方なく本文も目を通す。
そして見なけりゃ良かったと後悔した。
シズちゃんなんか大っ嫌い
なんの事はない、あいつが普段から言いまくってる文句だった。やっぱり送信者は臨也だ。
「…………」
大嫌い。
そうだろう。当たり前だ。遭えば殺し合いの喧嘩をする仲だ、互いに憎み合ってるに決まってる。
あいつが俺を嫌ってるのは事実で、当たり前で、もちろん俺だってそうだ。
なのに、なのにだ。
どうしてあいつは。
「ハートなんてつけるんだよ……」
大っ嫌い、その後にはやたらファンシーなピンクのハートがついていて。
相手がノミ蟲だと分かっているのに、頭でなく顔に血が昇った。
あれだ。俺の周り――トムさんやセルティくらいだが――はあまり絵文字を使わない。ましてや、こんなハートマークなんて、ベタで馬鹿みてえな奴はいやしねぇ。
だからだ。
珍しいから動揺しただけだ。
「恥ずかしいマネしてんじゃねえっつの……」
そのままうずくまったのは呆れたからだ。
そうして残ったいくつかの着メロとメール。
着メロは勿体ないから残したが、メールは消して、アドレスも着拒した。
……ある一通を残して。
何度も何度も削除しようとして。
でもどうしてだか決定ボタンが押せなくて。
苛立ってポストを殴って凹ませちまって。
借金を増やして。
今日一日を散々な日にしてしまったのに、気づけばあの絵文字を何度も見直していて。
何度も何度も悩んだ末、結局例のアドレスをノミ蟲と登録しただなんて、ぜってー誰にも言えねえ。
END
2011/1/27
24時間恋愛戦争
Mission【メルアド登録】
勝者:臨也
敗者:静雄
静(→)(←←←←←←)臨
ごみ箱行き予定だった駄文です。
すごくまとまりないけど、使ってしまいました。
【声出ない臨也】テーマのシリーズに組み込むか、【メール】繋がりのシリーズにするかもしれません。
いつも以上の駄文でごめんなさい。