drrr 長編

□bugdata
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――仲間を守るんだ!


【魔王が仲間を守るか。それは傑作だな】



どこからか、声が聞こえた。

――誰だ?

【ああ、そのままでいい。君の声は聞こえているから】

突然降ってわいた男の声。
どこか愉快そうな、聞いた事のない声だ。
俺は急いで周りを見渡した。
けれど男の姿はなく、ただ闇と光が広がるだけだ。

【俺の姿を捜しても無駄だよ。というか無視とは酷いな】

うるせぇ、テメェなんだよ?

【そうそう、その調子だ】

……テメェ、どこにいる?どっから喋ってんだ?

【俺はどこにいるか、それも無意味な質問だ。俺はどこにでもいるし、何処にも居ない。そしてどこから話し掛けているのか、それも君にとって大した問題じゃないし……俺がそもそも本当に話し掛けているのか、それも君――魔王にとって意味のない疑問、だろう?】

からかうような声音は、誰かを連想させた。
腹の底から苛立ちが湧き上がってきて、けれどぶつける相手がいないなんて、不快でしかない。
邪魔すんじゃねぇ!
声になるのかならないのか、解らないけれど叫べば、さらに男の笑い声が響く。

【やっぱり怒鳴って怒っている方がらしくていいな。君の本質が穏やかなのは知っているが、さっきみたいにぐずぐずと思い悩むのは良くないもんだ】

……テメェ、どうして俺の事を?

【どうしてそんなに詳しいのか?なんで魔王だと知っているのか、か?】

答える声は妙に抑揚がなくて、まるで機械が喋ってるようだった。
本当に男の声なのか、もう判断つかない。

【これも知っているから知っている、としか答えられないな。だが、俺と君は確かに初対面だ。はじめまして】

……ふざけんな。

【ふざけてはいない。ああ、さっきは少しからかってしまったがな。君は案外からかわれるのが好きかと思ってね。不快な思いをさせたのなら謝ろう】

素直に謝られてしまうのも考えものだ。
すっかり怒鳴るタイミングを逃してしまった。
いや、そんな事はいいのか。俺は急いでるんだ。
よく分からない奴に構ってる暇はない。
早く、早く戻らないと。
またこんがらがりだした思考を抑え、俺は再び泳ぎだす。
泳いでいるのかさえも分からないが。
【ところで君は光の下へ戻ってどうするんだ?】

と、手を伸ばしたところでまたしても声を掛けられた。
うざってぇと思いながら、仕方なく返事をしてやる。

――どうするって……仲間んとこに戻るんだよ。

【戻ってどうする?】

戻って……仲間を助けるんだ。
人間達がなんか仕掛けてる。なんかおかしいんだ。
だから俺がいないと!

【ふむ。記憶が混濁しているようだね。まあ、これだけ配列が乱れたら当たり前か】

抑揚のない声は、まるで考え事をしているみたいに言った。
俺に話すというよりも、一人言のように聞こえる。

【魔王が仲間を守る。なかなか面白い展開だ。まるで少年漫画の主人公みたいで俺は好きだな】

やはり声に抑揚はない。けれどその言い回しはじれったくて、何かを含んでいた。
だから、文句があるのかと訊こうとしたら、文字は進んだ。

【でも足りない。残念ながらそのバグでは足りないんだ】

――足りない?

【そうだ。なかなか斬新なバグだが、仲間想いの平和主義な魔王だけではゲームは変えられない。君は、戻れない】

戻れない。
残酷な文字に眩暈がした。
視界の端に数字が浮かぶ。
0と1、たくさんの0と1が並んでる。
でも数字よりも、今は目の前の文字に意識が集中してる。
――戻れないのか?

【そうだ。無理だ】

そんな……そんなのってあるかよ!
やっと気づけたんだ。
やっと、やっと俺の、俺が、俺がしなくちゃならない事を!

自分でも不思議だった。
初めてあったばかりの男、男かも判らないような正体不明の言う事を信じるなど。
けれど何故か解ってしまった。
それが真実だと。

――畜生。

なんて無力なんだ。
唇を噛みしめる俺の目の前に、またしても文字が浮かぶ。
まるでセルティと話してるみたいだと、場違いな事を思った。

【まだあるだろう。君には、まだあるんだ】

……ねーよ。

【本当か?君には、平和島静雄には、他に目的はないのか?】

何がだよ!
ただ怪力なだけで、仲間や大事な家族を傷つけるだけの俺に何があるっていうんだ!
やっと出来た居場所を、仲間を守れなくて、他に何をしろっていうんだ!

【君がしたい事を言えばいい。君がしたい事、なすべき事を】

したい事だと?笑わせんな!
全部諦めて、現実から眼を逸らしてきた俺に、何があるんだ!
臆病でからっぽな俺に……!

【そう、それだ。君はどうして気付いた?】

ア?

【仲間から眼を逸らしたのは自分だと、どうして今になって気付いたんだ?】

それは……

【仲間から眼をそらし現実から耳を塞ぎ、孤独に酔いしれていた筈の君が、どうして気付いた?仲間の優しさに、それを拒絶した自分自身に、どうして、今になって?】

機械音ですらない、ただの文字が問う。
文字の分際で、俺を、逃がさない。

【眼を逸らしていたら、逸らしている事実にも気付かないもんだ】

……。

【何が君を変えた?】

……。

【誰が、君が眼を逸らしてるのだと気付かせた?】

……。

【君は、誰の眼を見たんだ?】

……アイツが。

【アイツ?】

――アイツ……アイツが、どんだけ俺が眼を逸らしても、どんだけっ。

目の前がチカチカする。
歪む、ひしゃげる、壊れる。
0と1の数字が、零れては落ちてゆく。
アイツの姿が――構築されては消えてゆく。


――こんばんは。

――それ、口説き文句?


アイツは……避けられないくらい、初めから、ずっと……うざったくて。


――それはこっちの台詞!いきなり殴りかかってきた上に今度は全身まさぐってキモイんだよ変態!やっぱり君ホモ?あんまり俺が魅力的だからって盛ったりしたのかよ単細胞が!

――俺?俺の仕事はねー……人を誑かす事?


……石投げても、本気で攻撃しても笑ってて、俺を怒らせて……


――俺はね、君に逢いに来たんだよ

――俺はね、人間が好きで好きで堪らないのさ!


時々ドキリとするような、縋りたくなるような戯言をほざいて、笑うんだ。


――俺はイザヤ。折原臨也。


俺の前で、眼を細めながら、笑ったんだ。


――また逢えるよ。


紅い瞳から眼が離せなかった。
血の色のように禍々しい紅が光を全て吸い込むように輝いていた。
夜の闇がそのまま融けだしたみたいに黒い髪、色白の肌、弧を描く唇。
何かがおかしくて、何度も嫌な予感はしたのに、俺は、俺は、アイツから眼が離せなかった。


――シズちゃん。


アイツは――臨也は、俺から眼を逸らさなかった!


「イザヤァァアアアアー!」

叫ぶ、叫ぶ。
声が出なくとも叫ぶ。
声が存在しないなら創る。
変わる、変える、帰る。
俺は、俺は、俺は――!

【そうだ、平和島静雄は出逢った】

眼の前を記憶が横切っていく。
0と1が並んでは消え、並んでは消え、消えて、再構築する。

【魔王は勇者に出逢った】

そうだ、アイツはどれだけ俺が避けても、ずうずうしく俺に近づいてきて。
俺の感情を動かしまくって。
眼が、眼が綺麗で。
だから眼を見て話すのが久しぶりなんだって気づいて。
気づいたら、嬉しくて、寂しくて。
おれは、俺は、俺は、俺は俺は俺は俺は俺は――


「逢いたい」


逢いたい。
逢いたい。
逢いたい。

世界が回る、揺れる、乱れる。
記憶も思考も滅茶苦茶で、もう追いつかない。
ただ、ただ。

「臨也!」

ただ衝動だけが俺を。



突き動かす。



「ウラァァアアアアー!」

流れは止まらない。
いつの間にか、流れは光の下へ俺を運んでいた。
その流れに逆らう、逆らう、逆らう。
手を掻いて、空間を蹴り、捻じり、掴む。
もう文字など眼は追わず、向かうのは深い深い闇の底。
微かに届く、あの匂いの元へ。
臨也に、俺は、逢いにいく。

【魔王は勇者に】

記憶は俺に追いつかない。
文字も、声も、何者も俺には追いつかない、止められない。
どころか纏う光は零れて、0と1が漂うばかりだ。
余計なものは、ナニヒトツ、イラナイ。
道はない、光はない。
記憶も感情も追いつかないまま、それでも俺は、俺は。


「臨也!」


【恋をした!】


闇に堕ちた。






Error!

Error!


【……そして魔王は闇に堕ちた、か】


Error!

Error!


【おめでとう平和島静雄】


Error!

Erro……


ピー!


ピー!

ピッ


【正解だ】




Select the lodedate.

Lodedate15←



【君は最高のバグだ!】



ピッ



Lodedate15 OK?
Yes←
No

【奇跡のロードが始まった】


ピッ



【だからこそ、あえて言おう。こんな言い回しは好きじゃないんだが、あえてアイツの言葉を使うならば。君に事実にして真実、そしてどうしようもない現実というものを】



Now loading……



【この声が君に届かず、そして君が君の恋心を忘れてしまうのだとしても。君に教え込もう】



Now loading……



【魔王は勇者に勝てない】



Now loading……



【魔王が勇者に倒されなければ、ゲームは終わらない】



Now loading……



【君は、勇者に殺される】



Now loading……



【それでも健闘を祈ろう。このデタラメなバグを読み込ませた君の未来に】



Now loading……



【俺が選んだ勇者の恋に】



Now loading……


Now loading……


Now loading……



 
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