drrr 長編

□bugdata
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それは今から数年前の出来事。
まだ世界に魔王も勇者も存在しなかった頃の物語。


年々増すモンスターの襲撃に人間達が反撃の手を持っていなかった頃、軍の加護も届かないような辺境の地で、人に仇なすモンスターを退治して回る男がいた。
まだ少年といっても差し支えないような若い男は、たった一人でいくつものモンスターの勢力を潰していった。
彼の旅には目的地がなく、帰れる故郷もなければ終着地もなかった。
疲れた体を休める止まり木さえ彼は持っておらず、ただひたすらにモンスターを倒して回る、あてのない旅であった。

そんな男に対して、庇護される人間さえも恐怖し誰も近づかない。
時に人から救世主と謳われ、それ以上に異端として恐れ疎まれながら、それでも彼はモンスターを追い続け、ただ孤独な存在として戦い続けた。
孤独なまま、孤独なまま。

だがそんな彼の背に、ある日黒い影が――




それは男がとある辺境の地にて、近隣の村々を襲うモンスターの賊を退治するため、賊のアジトへと単身乗り込んだ時の事だった。
元々下級のモンスターしかいなかったため、賊は男の敵ではなかった。
まるで紙屑を放り投げるかの如く、男は次々とモンスターを蹴散らしていく。
それでも多数に無勢であるのは事実で、全方位からの一斉攻撃は男に僅かばかりではあってもダメージを与えていた。
それでも男は揺るがない。
殴って、蹴って、投げて、突き飛ばす。
縦横無尽に、ただ暴れまわった。傷つく事など躊躇わず。


故郷を出て一年、その頃の男の戦い方はまさに捨て身であり、彼は一切の防御を行わなかった。
それこそ、そう、死を望んでいるかの如く。
自暴自棄としかいえない戦法は、しかして男の異常な肉体を増強させる一方だった。
彼が傷を負えば負うほどに彼は傷つかなくなり、傷つかなくなるほどに彼は傷を負った。
皮肉な負の連鎖は彼を追い詰め、傷つけ、彼を最強の存在に仕立て上げる。
故に、男は一切の防御を行わない。終わりを望んで、自ら傷を負う。
より自分が化物に近づくと知りながら。

だから男は振り向かなかった。
たとえ背後から、モンスターの鋭い牙が襲い掛かろうとしていても。
傷つく為に振り向かなかった。
そんな男の背後に、モンスターの牙が――

襲い掛かる事はなかった。

「っな!」

男が驚きの声を上げる。
何故ならば男の視界が、一瞬にして闇で覆われたからだ。
正確に言えば、男を背後から襲ったものは、黒い黒い影であった。
男の背後に迫ったモンスターの攻撃よりも速く、黒い影は男を頭の先から足元まですっぽりと覆ってしまったのだ。
自身を襲った存在を男は影、としか表現しようがなかった。
視界の端から伸びた影は、男が知覚する前に視界を覆ってしまったのだから。
全身を影に覆われたのだと自覚した時、男は僅かにだが焦った。
男はそれまで、ゴーストのような実体を持たないモンスターと遭遇した事はなかった。
魔法を一切使えない彼にとって、殴る蹴るなどの直接攻撃が通じない相手になどなすすべもない。
そのため男は焦ったのだが、幸いにも男には体を拘束されている実感があった。
影は、男を、拘束する実体を持つのだ。
ならばと男は安心し、正体不明の影を引きちぎるべく力を込めた。
実体があるならば何も問題はないのだから。
しかし正体不明の物体は男が力を込めても、いっこうに振りほどけなかった。
そんな事態はこれまで皆無であり、男は焦りこそしないものの驚いた。
こんな怪物が賊にいたとは厄介だと思いながら、男は今度こそ本気の力を出そうとした。
本気で影を振り払おう――力を込め始めたその時、突然影が男を解放した。
予想外の展開に驚く男は、眼の前の光景にさらに驚愕した。
男が戦っていたモンスター共は一匹残らず倒れていた。
そして、この場に立つのは男と――黒い影のみ。
あっさりと獲物――男を解放した存在は、そのまま集約して人型を成していた。

「てめぇは一体なんだ?」

輪郭の定まらない影の塊に男は問いかける。
返事はない。
ただ、影の中から鈍く光る球体――水晶玉が出現した。
新手の攻撃かと身構えると、水晶玉に文字が浮かび上がった。
それは、

『お前は人間か?』

その問いは男を驚愕させるには充分で、男の思考は停止する。
男が絶句している間に影はさらに集約し、ひとつの形を成した。
それは死神のような存在だった。
黒く巨大な鎌を持ち黒い甲冑に身を包んだ存在は人型で、しかしそれは間違いなく人外のモノだった。
何故ならば、それには首が無いからだ。
異様としか表現できない姿はモンスターの中ではまだ禍々しくない方だ。
けれど、男は震えてしまった。
かつてない存在に。
かつてない問いに。

答えられないでいる男に背を向け、影は武器を消した。
そしてどこからか現れた同じく漆黒の馬車へと跨る。
男に背を向けたまま。

「待て!」

気づけば男は叫んでいた。

「なんで、なんでモンスターのくせに俺を助けた!?」

この人外が男を救ったのは最早明確で、まごう事なき事実だ。
だから男は問う。何故自分を助けたのかと。何故、何故、何故。
モンスターが何故、人間を助けたのかと。

『お前がいい奴だからだ』

そしてこの答えも男を驚愕させるには充分で。

『もっと自分を大事にしろ』

憎むべきモンスターを目の前にしながら男は動けない。

『お前の姿は痛々しい』

最後まで好き勝手な事を述べて去ったモンスターを、男は追う事ができなかった。
いつまでもいつまでも、立ち尽くしていた――。




それから後、男はこのモンスターと度々遭遇する事となる。
それは決まって、男が他のモンスターと戦っている時で、このモンスターは毎回人間である男に加勢した。
首の無いモンスターは声を発する事はなく、理由も目的も告げぬまま男を助け、そして去っていった。
そんな怪物に対し、初めは戸惑い攻撃さえした男ではあったが、不思議な事にいつしか彼らの距離は近づいていった。
ほとんど言葉を交わす事のない二人であったが、やがて会えば当然のように背中を預けて共闘するようになった。
時には互いに小川のせせらぎを聞き、穏やかな時間を共有するようになった。

ある日、男は問うた。
何故、初めて逢った時に自分を助けたのかと。
彼女は――このモンスターは女性だとその頃には男も気づいていた――答える。

『お前は人間だろう?私と違って不死身でないのにあんな危ない戦い方をしていたんだ、止めるに決まってる』

自分は傷つかない、化物だから守る必要はない、そう男は答えた。

『だとしても……傷はつく。だからもう止めてほしい』

初めて出遭った時同様、男は震えてしまった。
かつてない答えに。
かつてない想いに。

『友達が傷つくのは嫌なんだ』

かつてない感動に。
かつてない喜びに。
男は震えた。
震えながら泣いた。


彼女は、人間に奪われた首を捜して旅をしているのだと言った。
なのにどうして人間を助けるのだと男が問えば、彼女は少し照れくさそうに答えた。

『始めはな、人間にさほど興味はなかったんだが』

人間と同居するようになって変わったのだと。
ただ単に首が無くなって思考が変わったからなのかもしれないが、とも彼女は言った。
だが男は気づいていた。
きっとその同居人は、彼女が考えている以上に大きな影響を与えているのだろうと。
それが男にとって、自分を人間ではなく化物だとしか思えなくなってしまった男にとって、酷く羨ましい関係だった。
眩しくて、どこか自分も許されたような、そんな錯覚を覚えるくらいには羨ましかった。


男がデュラハンと出会って約二年、故郷を出て三年が過ぎようとした頃、男はその同居人とも顔を合わせる事となった。

「君が噂の国士無双、空前絶後の怪力人間かい!いやあ会いたかったんだよ!見た所本当に細身だけどどんな構造してるんだい?よかったら皮膚のサンプルをちょっとだけでも」

『新羅!失礼だぞ!』

「えっセルティまさか君、この男の事が?そんなの駄目だよ!言っておくけど僕とセルティは以心伝心、相思相愛その愛はまさしく比翼連理!だから君がっつべぼば!!」

とりあえずイラッときて男はこの新羅という怪しい人間を殴り飛ばしたのだが、その後も彼は瞳を輝かせながら男を解剖したいと言い続けた。
そんな相方の首を絞めながらも、セルティ――男はその日初めて彼女の名を知った――は穏やかに新羅に連れ添っていた。
以前は首を捜す目的の為か、常に切羽詰ったような空気を纏っていた彼女だったが、最近になってその空気が和らいでいた事に男は気づいていた。
だからきっと、この新羅という男と何かあったのだろうと、それがきっと彼女に良い影響をもたらしたのだろうと思って、男も嬉しく思った。

『よかったら一緒に旅をしないか?』

セルティからの申し出は唐突だった。
一緒に人間に害をなすモンスターを倒す旅をしないかと、セルティは申し出た。

『笑わないで聞いてほしい……私は』

首が無い、人外としか見えない彼女は人間である新羅の隣で、顔が無いまま微笑んだ。

『人間とモンスターが仲良く暮らせる世界を創りたいんだ』

しっかりと新羅に寄り添って、告げた。


「俺にも手伝わせてくれ」


運命というものがあるのなら、これはきっと運命なのだろうと男は思った。
かつて最愛の弟を傷つけてしまった罪の意識とモンスターに対する憎悪のみで戦ってきた男に、初めて目的というものができた。
彼自身の罪の意識も、憎しみや耐え難い破壊への衝動も解決したわけではなかった。
それでも孤独を救ってくれた親友に恩返しがしたかった。
モンスターと人間同士の恋が叶ってほしいと思った。
モンスターと等しく化物である自分が、人間の傍に在る事が許される世界が見たかった。
生まれ持った忌まわしき力に、理由が欲しかった。
救われたかった――!

「ようし!僕達は今から仲間だね。改めてよろしく。私は岸谷新羅」

『そういえば名乗っていなかったな。なんだか照れくさいんだが……私はセルティ・ストゥルルソン』

「俺は……」


「平和島静雄だ」


これが、後の魔王が誕生した瞬間だった。
それ以降、彼の物語は急激に動き出す。
始めは静雄とセルティそして新羅の三人だけだったのが、静雄の力に惹かれて妖刀・罪歌が現れ、宿主である杏里ともども味方となった。
半人半妖のルリも静雄達の考えに共感し仲間となり、静雄を狙いに来た殺し屋ヴァローナまでもがいつしか仲間となった。
罪歌の子供やルリの僕となった人間達も含め、静雄達の勢力はどんどん巨大になっていき、魔族のプリンセスである茜が仲間となった事で、ついに最大の勢力となって他のモンスターを従わせるまでに至った。
その過程、他のモンスターと抗争に明け暮れている間に静雄の力は増していった。
そしてその圧倒的暴力の前に数々のモンスターが平伏し、いつしか人間である筈の静雄がトップとして認識されるようになった。
彼は人間でありながらモンスターに恐れられ、化物と称された。

そうしていつの頃からか、彼はこう呼ばれるようになる。
魔王と。




その未来を知らない彼は、三年ぶりに名乗りながら三年ぶりに笑顔を浮かべた。

「俺の名前は平和島静雄だ」

まさにこの日、この時、能力としてはごく一般的なただの青年が、賢者から勇者として予言を受けた事も――彼は知らない。
人間である魔王と人間である勇者が出逢うのは、それから数年後の話――




 
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