drrr 長編

□savedate15
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あいつから噂とはいえ、自分の存在を客観的に聞いて不思議な気分になった。
人間を裏切った勇者と、モンスターから孤立した魔王。
どちらもひとりぼっちの寂しい存在だと知って、たぶん、初めて相手の事を意識したんだ。
魔王と勇者。
天敵、宿敵、そんな間柄の筈なのに、自分の対ともいえる存在に興味がなかった。
興味がなかったから、案外似たもの同士なのだと知って、会ってみたいと簡単に思った。
この戦いが終わったら、あいつを連れて会いに行こうか、そんな馬鹿みたいな事を考えてたんだ。
本当は、もっと早くに知るべきだったのに。もっと感心を持つべきだったのに。

魔王と勇者。
人間を裏切った勇者と新しい勇者。
魔王を倒そうとする勇者と迎え撃つ魔王。
二人の勇者に一人の魔王。なのに人間の敵は二人。
気づけば、歪で馬鹿げた三つ巴ができていた。
どれが対で、コインの裏表みたいに合判する存在なのか、もう解らない。

俺はある意味対となる存在に――新しい勇者に興味を持つべきだったんだ。
そして、もう一人の――自分の本当に対となる存在を知るべきだった。

誰と戦おうとしていたのか、俺は理解するべきだったんだ――






「久しぶり、兄さん」

そこにいたのは、ずっと前に別れた筈の、故郷で静かに暮らしている筈の弟だった。
俺が怪我を負わせてしまって、弟は――幽は悪くないのに、モンスターではなく、俺が、俺が、俺が傷つけてしまった弟。
弟が、俺の目の前に居る。
黙ったまま、静かな眼で俺を見つめている。

「そんな……お前が?」

状況としてはおかしくはなかったのかもしれない。
幽は俺よりずっと優しくて、できる奴だ。
勇者なんて称号が似合うと、誰よりも俺が思っていた。
そんな自慢の弟なんだ。


けれど、どうしても認めたくはなかった。
幽が俺の敵なのだと、思いたくはなかった。
だから、嘘だと言ってほしくて。
否定してほしくて、縋るように叫んだ。

「お前が勇者なのか!?」

どこかで絶望しながら、それでも幽が首を振ってくれる事を期待して。










「残念ハズレ」


声は後ろからした。


「え?」


背中に走る衝撃。
ひしゃげていた世界が、本当に歪む。
痛みは無い。
ただ空気の塊が身体の中を突き貫けていったように、圧倒的な衝撃だけが襲った。




「騙された?」




男のわりに高めで、賛美歌を歌うのが似合うような甘い声。
嘘臭い爽やかな響きを乗せて、その声が首の後ろのすぐ傍でささやく。
嗤いながら。



「イ……ザ、ヤ」



一瞬視界が真っ白になって、真っ暗になった後で赤い靄に侵食される。
身体は動かない。
後ろを振り向けない。
衝撃で息ができない。
それでも出ない声で、声の主を呼んだ。


「言っただろう。俺の仕事は人を誑かす事だって」


嘲笑ったまま、声の主は軽やかに言ってのけた。
その瞬間、遂に膝に力が入らなくなり俺の身体が崩れ落ちる。
世界が反転して、俺を背後から刺した奴の顔が視界に映った。
別れた時と何も変わらない姿。
人形みたいに白い肌に、真っ黒なローブ。
弧を描く唇。
そして紅い双眸。



「俺が君を好きな筈ないだろう?」



あの紅い瞳を煌めかせて、その中に俺を映していた。
その眼があんまり綺麗で、他は何も解らなくて、考えられない。



――やっぱりあいつは、俺から眼を逸らさないな……


それが少し嬉しくて、酷く……悔しかった。








――これは歪んだゲーム――








――歪んだ恋の物語――








「だって俺は勇者で、君は――」














「魔王だから」








その言葉を最期に、俺の意識は落ちていった。










――これは歪んだ恋のゲーム――







――×物語

















GAME CLEAR!


〜YOU ARE WINNER!〜 




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