drrr 長編

□savedate15
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モンスターと人間が共存。
どこか他人事のように感じていた理想が叶えばいいと、叶えたいと初めて思った。
だから、俺は、今日……人間に向かって『力』をふるう。


俺が、勇者を――倒す。






本来なら俺は戦いに出てはいけなかった。
周囲のモンスター共から信用されていないからだ。
何より、俺が闘えば城が壊滅する恐れもある。
それは事実だ。
だから、無理やり出てきた。
モンスターだとか人間だとか、魔王だとか勇者だとかもう考えるのも面倒くさい。

「要は手前らを城に入れなきゃいいんだろ?」

最前線、敵が城に入る前に叩き潰せば済む話だった。
そしてそれは、俺にとってさして難しい問題ではないのだ。

今しがたここに到着した人間は七名。
いずれもそれなりに力のある存在だとは肌で感じていたが、だからって負ける気がしない。
うぬぼれではなく、悲しい事にそれは事実なんだ。
こいつらでは俺には勝てない。どうやっても、たぶん勝てない。
だから、出来るならば話し合いで穏便に解決したかった。……無理だろうが。
持っていた門灯を肩に担ぎながら、俺は特に気負わずに尋ねてみた。

「で、誰が勇者様なんだ?」

一同を見渡せば鎧を着た、ガタイがよくいかにも騎士っぽい男が眼に留まった。
帽子で半分隠れた眼光は鋭いが、落ち着いていて場慣れした空気があった。

「そこのお前か?」

「いいや」

けれどそいつはそっけなく否定した。
少々意外に感じながら、ならばと貧弱で優等生っぽいガキに目を向けた。
正直勇者って器には見えなかった。
そのガキにくっついてる、黄色いスカーフを巻いたガキは、まだ闘えそうだ。
だが服装的に盗賊ってとこだろう。
さすがに騎士らしき男の後ろに控えてる男女や、あきらかに怪力自慢って風貌の黒人は違うと思う(肌で感じる実力でいったら、その黒人が断トツではあったが。)。
そして一行の最後尾には、真っ黒いローブをすっぽり被った男がいた。
そういえばあいつ――臨也が魔法使いには注意しろと言っていた事を思い出す。
黒ローブの男は気配が希薄だ。
強そうには見えないが、その存在感の無さは少しひっかかる。変な魔法を使われる前に気絶させた方が無難かもしれない。
ひとまず勇者と話がつかなければ、あいつから殴り飛ばそうと狙いだけつけた。
そうして一通り見渡してみてもあんま勇者って感じがする奴がいないなと思いながら、とりあえずガキ二人に声を掛けた。

「ならお前らのどっちか、か?」




「違うよ」


声は一同の最後尾から聞こえた。


「…………え、?」


聞き覚えのある声だった。
あまりに聞き覚えがありすぎて、自分の耳が信じられなくなるような。
聞き覚えのある声だった。

呆然として声の主を見遣ると、黒いローブの下で見えない筈の視線を、真っ向から受けた。
すると申し合わせたように他の奴らが道を開け、黒いローブの男が前に出る。
嫌だ嫌だと脳が眼の前の現実を拒絶するが、男はそんな俺に躊躇せずフードに手を掛けた。

「嘘だ……」

時間の流れは重いほどにゆっくりと、けれど絶対に止まってくれないままに流れゆく。
重力に従ってフードが下りれば、そこから予想通りの、見覚えのある顔が晒された。

「ぁ……あ、……あ……」

声も出ずに身体が震えだした。
そんな俺と対照的に、男は流れるような仕草で顔を上げた。
伏し目がちだった双眸が俺を真っ直ぐに見つめる。
俺の網膜に写っているのは、ここにいてはいけない奴の姿。


「お前が……お前が勇者なのか!?」


信じられなくて、信じたくなくて、俺は叫んだ。
けれど俺は今人間の敵で、対峙する相手は新しい勇者達で、その正体なんて知る由もなくて、でも俺は闘おうともして、嫌で、わけが解らなくてただはっきりして、いたのは、はっきりしていなくても、はっきりしているのは、俺が今向かい、合って、る人間は、俺がこれから闘う相手なんだ。


――なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで。なんで……!


ちゃんと声になっているのかも分からない。
それでも込みあがる激情を抑えきれずに、衝動のままに叫ぶ。

担いでいた門灯が手から零れ落ちた。
落ちたそれはひしゃげていた。
視界が歪みだす。
動悸が激しい。
思考も、感情も、血液も、知識も記憶も空気も視界も世界もひしゃげてしまった。


――どうして、お前が、今、今ここにいるんだ!


俺が知っている奴だった。
絶対に闘いたくない相手だった。
戦ってはならない存在だった。


わけも解らないまま、ひしゃげた声を絞り出して、吐き出した。
愛しさを、愛しさを込め。
全部、込めて。
名を。

















「幽!」


最愛の弟の名を。

    
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