drrr 長編

□savedata13
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どうにもこうにも、自分の中で沸き立つ苛立ちを抑えきれなかった。

「うぜぇうぜぇうぜぇうぜぇ!」

理由なんてはっきりしている。
勇者パーティーがここに向かっているからだ。
もう止められない。
人かモンスターか、最後の決戦の日が迫ろうとしている。

もうどうするかなど決めた筈だった。
うじうじ悩むなど自分らしくもない。
立場を決めたあの時から、この日が来る事など判りきっていたというのに。
人間と戦う覚悟を決めた筈だったのに、吐き気がするようなざわめきは胸に巣食ったままだ。
このままでは周囲のモンスターに当たり散らしてしまう。
だから、俺は、逃げるように城を出た。



魔王の拠城だなんだと言われてはいるが、城自体は別段変わったところなんてない。
普通の人間が立ち入れられないほど山奥にあるだけだ。
途中にある荒野や崖を気合いで越え、そこかしこにあるモンスターの巣を力ずくで抜ければ、まぁわりと普通に来れる。
北地にあるから風は冷たく厳しいが、鳥は鳴くし花が咲く。
そして森を少し歩けば、こうして美しい湖が見えてくる。

霧に包まれた視界の先、目当ての湖が見えて俺はほっと息を吐いた。
ここは俺にとって一番安らげる場所だった。
城からそれほど離れていないわりにモンスター共は寄り付かないため、ここは静かで気に入っている。
特に夜明け間近のこの時間帯に来るのが好きだ。


まだ辺りは薄暗い霧に包まれていて、空気がツンとする。
光だとか闇だとか境界線が曖昧なまま、霧の中で全てがうやむやになって、けれどいつかは朝日が湖面を照らす。
ゆっくりと光が射す感じが穏やかで、胸の中の晴れない鬱憤も掻き消してくれる。
だから俺はここが、この瞬間が好きだ。


鳥が鳴いている。
夜明けはもうすぐだ。

――今だけは、人間だとかモンスターだとか面倒な事は忘れよう。

そう思って一度眼を閉じて深呼吸をし、心ゆくまでこの時間を味わおうと再度眼を開く。

そんな俺の前に闇が降り立った。






闇が、降り立った。






ふわりと眼の前を横切ったのは黒い影。
闇夜を切り取ったような漆黒で、裾がゆらゆらとたなびいていた。
裾、そうそれは黒い衣なのだと理解したのは一瞬後。
そんな理解が追いつかなくなるほど、視界は黒で埋め尽くされた。




「こんばんは」




闇が舞い降りて、そう言った。







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