drrr 長編
□savedata13
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異種身分違いRPGパロ
※新セル表現含みます。
昔から自分の化け物じみた力が嫌いだった。
強い力――それ自体はこの世界で歓迎されるものだったのだろう。
モンスターとの対立、開墾時の重労働。
ほんの少しでも、俺の力がみんなの役に立ったのは正直嬉しかった。
だけれど、俺の力は、あまりに人間離れしていて。
『暴力』でしかなくて。
結局は大事な人間さえも傷つけた。
だから、だから俺は――
『勇者がこちらに寝返ったというのは、本当か?』
どこかおどろおどろしい紅い月の夜。
月にさえ手が届きそうな塔の頂上、そのバルコニーに白衣姿の男が一人佇んでいた。
その男の眼の前に、ぼんやり光る水晶玉が突き付けられる。
それを見て男は満面の笑みを浮かべ、水晶の主――全身を黒い甲冑で包んだ女性の名を呼ぶ。
「セルティ!おかえり!」
『ただいま新羅』
男に返事をする声はない。
何故ならばこの女性、セルティには首がないからだ。
妖精デュラハンである彼女は、首がないために声も発する事が出来ない。
代わりに彼女は、水晶玉に文字が浮かび上がらせ質問をしていた。
「遅かったじゃないか!」
セルティに抱きつこうとした男――新羅は、その熱かろう抱擁をあっさりかわされ、あまつ鳩尾に拳を喰らわされた。
「ぐふッ!」
これは痛い。
痛いし苦しいに決まっているのだが、男は妙に嬉しそうだ。
「元気そうでよかった!まぁ俺のセルティがそこいらの人間風情にやられる訳なんてないけどね。というか傷一つつけたら僕何しちゃうか解んないけど」
『黙れ』
「痛い痛い痛い!ちょっセルティ首、首はギブッギブー!」
『新羅!いい加減真面目に答えろ!お前は勇者に会ったと聞いたぞ。あの噂は本当なのか?』
「ああ、うん。本当だよ」
『……驚いた。まさか本当に勇者が寝返るなんて!』
「そう?僕は実際会ってみたら納得したけどなー」
『だって勇者だぞ!勇者が人間を裏切るなんてありえない!』
「そうでもないさ。むしろ何で彼が勇者なのか疑問しか浮かばなかったよ。彼はこちら側……モンスター側が相応しい」
『何故そんな人間が勇者だったんだ?』
「正確には元勇者。今は別の人間が勇者をやってるらしいから」
『良いのかそれで!?』
「うーん……何でも、勇者って職業っていうより称号らしいからねぇ。いなくなったら次の人ってとこじゃないの?」
『なんかがっかりだ』
「けれど彼が抜けたことで、人間側の戦力は確実に落ちたよ。それに彼からは、色々と有益な話も聞けたしね」
「色々と……」
どこか含みを持って呟いた新羅の声。
その声が、何故だが、ひっかかって。
セルティは我知らず震えていた。
「まぁ僕としてはこっち側に来る人間が増えるのは、喜ばしい限りだ」
『……』
「セルティ?」
『新羅……私は』
「セルティ。私は何度も言った筈だよ。私がこちら側に来たのは、純然たる自分の意思。君が心を痛める必要なんて全くないんだ」
『だってお前は人間なのに』
「君を愛してる……種族なんて関係ない」
『新羅……』
「一緒に、モンスターと人間が仲良く暮らせる世界を創ろう」
まっすぐ告げられた言葉。
たまらずセルティは新羅に抱きついた。
――必ず……!
しばらく二人は抱き合っていたのだが、新羅は名残惜しげに身を離す。
「新しい勇者一行がこちらに向かっているらしいね」
その声は堅い。
セルティも魔王軍幹部として、即座に意識を切り替えた。
『ああ。早ければ明後日にも着くらしい』
「随分と早いね。まさに疾風迅雷だ」
『だから私は今から出発する。出来るだけ彼らを足止めしたい』
「そっか、君なら平気だろうけど……まさか一人で行く気かい?」
『当然だ。でないと双方の被害がでかくなるだけだ』
「確かにそうだけど、それでは君の負担が大きすぎる。杏里ちゃんにも行ってもらいなよ」
『杏里ちゃんを人間と戦わせたくない。それに城の護りを固めたい』
「ゾンビ軍を率いてルリ嬢が護りについてる」
『なら念のため、杏里ちゃんにも罪歌の軍隊で護ってもらおう』
「そんなに城を固めなくても、ここは魔王様がいるから平気じゃないか」
『出来るだけ魔王には働いて欲しくない』
「まぁ……そうだね。彼に事態を掻き回されても困る」
『酷い言い様だが、まったくだ』
「解ったよ。でも無理はしないでね」
『ああ。その代わり、新羅は皆を頼む。特に魔王にモンスターがやられないか、よく見張っていてくれ』
「こんなに油断ならない魔王って正直どうかと思うなー。今回の騒動だって、魔王様の耳に入れたくないし……無理だろうけど」
『大変だろうが頼む。それとどんな奴かは知らないが、元勇者が変な動きをしないように気をつけてくれ』
「解ったよセルティ。この戦いを終わらせて、君とラブラブエロスイートな生活を送る為なら僕はッゲホブ!」
『さりげなくエロとか言うな!ああもう!行って来る!』
怒りと羞恥で肩をいからせた彼女は愛馬に跨る。
それでも最終戦争を目の前にして不安なのか、一度だけ新羅の方を振り向いた。
「いってらっしゃい、セルティ」
『ああ……いってくる』
「大丈夫。君が帰って来る頃には、全て解決しているさ」
そう言って新羅は笑った。
何故だか感じた嫌な予感。
その不安を薙ぎ払うが如く、セルティは――魔王の右腕とも謂われる切り込み体長は、漆黒の鎌を手に月夜を翔ける。
この戦いを終わらせるため。
魔王に勝利を捧げるため。
人とモンスターとの共存のため。
何より、愛する男との平穏な生活のために。
セルティは夜の闇を駆けて行った。
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