drrr 長編

□savedata13
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俺の力はただの『暴力』だ。

俺が生まれ持ってしまった異常な力。
誰よりも疾く、誰よりも強く。ただ殴って、蹴って、投げる。
単純に言ってしまえば、ただの怪力。
けれど異常過ぎる俺の『暴力』で、これまでもゴーレムやらドラゴンやら、ありとあらゆるモンスターを倒してきた。

そんな俺の暴力に『過程』はない。
怒りが臨界点に達した時、自動的に稼動してしまう。そんな代物だ。
この力のせいで、自動喧嘩人形などとふざけた通り名で呼ばれていた時期もあった。
そして不本意な事だが、なかなか的を得た表現だと思っている。
俺の力は、いわば全自動のポンコツ人形だ。
一度スイッチが入れば誰にも止められない。ただひたすら、破壊を繰り返すポンコツ品。
たとえ持ち主がそれを望んでいないとしても、絶対に止まらない。
そんな呪われた代物だ。

それは自分でも自覚していたから、力をできるだけ抑えようとしてきた。
だが幼い頃に発動したこの力は到底制御できるものではなく、俺がキレる度に何かを破壊していった。
大人になってからもそれは変わらず、キレて暴力をふるってしまうのが常だ。
それでも最悪の事態には至らないよう、無意識にうちに力は抑えていたんだろう。
普通ならば俺も我慢を重ね、ぎりぎりまで怒りを堪えるから、限界に達してしまったとしても爆発はしない。
少なくとも、吹っ飛ばそうだとか、木でぶっ叩こうだとか、選択する余地くらいはある。
言ってみれば、暴力の衝動を小出しにして、爆発するのを留めているんだ。

だが瞬間的に臨界点を超えた場合、俺の暴力はそれ自体にも『過程』が存在しなくなる。
自分の怒りが自分で自覚するよりも早く限界を超えてしまえば、いっさいの遠慮がなくなり、爆ぜる。
発動した、そう俺が自覚した時にはすでに対象は吹っ飛んでいて、自分がどんな暴力をふるったのか自分でも解らない。
だから、俺の暴力に『過程』は存在しない。
対象が誰であれ。
ただ、『結果』のみが俺の前に残る。


だから俺は、自分の暴力に振り回されて。
そして取り残される。


今も――……






――殺っちまった。

拳を突き出すと同時に思ったのはそれ。
俺はまたしてもキレたらしい。
キレた、そんな自覚がないのは俺が本気でキレたからだろう。
目の前の男の言葉を俺が理解しきる前に、俺の腕は動きだしていた。
そこには躊躇いや後悔、そんな人間らしい感情なんて入り込む余地もない。
ただ一瞬、拳がこいつに到達する前にあの紅い瞳が脳裏を掠った。
それでこみ上げたものが、感情が何なのか俺は判断つかなかった。
全ては手遅れで、思考も感情も取り残されたまま。俺は暴力に振り回された。
そして、俺の拳がこいつにめり込む。……筈だった。

――!?

自動操縦で繰り出した拳は、確かに目の前の男の体にめり込んだ。
ダイレクトに伝わる感触。
九の字に曲がった体。
傾ぐ黒衣。
俺は確かに、眼の前に存在する『黒』に拳を叩き付けた。

だが、違和感。
まるで生ぬるい水を叩いたような、不確かで異様な錯覚。
まだ衝撃で相手が吹っ飛ぶ前の段階。
触覚が脳に信号を送ったかさえ定かでないコンマの世界。
されど、違和感。
奇妙なねじれ。
今だかつて体感した事のない歪み。

――これは異常だ。

そう知覚した瞬間、『黒』が爆ぜた。

「ッ!」

不意に目の前の黒いローブが歪んで、揺らめき。

渦巻いた。

黒い渦がとぐろを巻き、空気が、そして自分の体もが引き寄せられた。

「なっ!」

異常を察知し、その場に踏みとどまろうとした。
けれど普通に引っ張られるのとは異なる力に引き寄せられ、自分の上体が僅かに前のめりになる。
そして空いた後ろのスペース。
そこに何かが滑り込んだ。
ゾクリと背に鳥肌が立つ。

――やばい!

本気で感じた危機感に、俺の力は一気に噴き出した。

「うらぁッ!」

気合と根性。まさにそれらで、引っ張られていた右腕を引き戻した。
その反動で上体を引き上げ、遠心力に逆らわずに反転。後ろを振り向き様、拳を払った。



ガッ



振り払った腕を受け止める重い感触。
それは一見粗末な木の棒だった。
そして交差した棒を握るのは、黒いローブをまとった男。

「なっ!?」

そいつの歪んだ笑みに気付いた瞬間、全身に痺れが走った。
雷で打たれたような不快な衝撃だ。
見ればビリビリと電流が腕の表皮を走り、全身に広がっている。

「ぐっ」

危険を察知し、若干鈍くなった脚で地を蹴り相手から距離を取った。

「テメェ……」

驚きでまともに声の出ない俺に対して。

「言っただろう?俺もわりとやるんだって」

ニヤリと笑ってみせたこいつは、まさに邪悪そのものってツラだった。


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