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□うさやとお花見
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「すまん、あいつらを満足させるためにも今日だけは付き合ってくれ」
――と、長々とした回想もとい現実逃避をしている俺に向かって、ドタチンが心底申し訳なさそうに頭を下げた。
むしろ土下座。帽子まで脱いでるし。
ドタチンは元々礼儀正しくて会釈や一礼も惜しまないとはいえ、決して低くも安くもない彼の頭を見下ろしてると、なんだか落ち着かない。
狩沢さん達に泣き落とされたヘタレだが、俺を本気で心配してくれたのは確かで。
一応俺が吐きそうになるたびにオタク達を止めてくれたのもドタチンなわけで。
頭をなでたり背中をさすったり、頼もしい腕の中に俺を庇ってくれたりしてさ。
「ドタチン……」
ドタチンの傘下に入る気は毛頭ないが、なんというかこの背中に付いてくのっていいな、とか。
今回の花見に強制参加させられてる時点で死滅している筈のドタチンの頼もしさに、騙されたくなったりする。
「……まったく。五枚で勘弁してやっても……」
だから、一瞬だが、俺もほだされかけたのだが――……
「付き合えだなんて!ドタチン大胆!うさやも惚れ直しちゃうよね?」
「だから誰がうさやだって!」
興奮した腐女子の暴言に、気分は再下降する。
――何がうさやだよ!
臨也がウサ耳生やしてうさやとか、誰が上手いことを言えと言った!
それに……。
「だいたいドタチンは俺の心のオアシスなんだ!ネタでも汚すな!」
「臨也……!」
「ドタチンは俺の……俺の……貴重な常識人なんだ!」
「……え、あ、うん……そうだよな」
そう、今回の一件で俺のドタチンへの信頼は下がりつつも、違う意味では跳ね上がった。
頼りになる男気あふれる番長から、意外と使えないけれど憎めない二枚目役に。
というより癒しキャラに。
だって土壇場で頼りにならないとはいえドタチンは優しいし、常識が通じるし、何より俺を二次元仮想生物扱いしない!
だから彼を不埒な妄想の対象にするなど許せない。
「ドタチンはさ、例えるならくたびれたスーツを来た万年平社員である父親。頼りにならないようで、けれど頼りたくなる人情家。奥さんの愚痴を黙って聞いて毎朝ゴミを出して犬の散歩も担当するような、憎めないお人好し!あるいは酒浸りな駄目夫に振り回される奥さんもいいね。駄目夫に暴力を振るわれながらも『この人には自分だけだから』と言って泥沼の底まで付いていく、一見美談的だが典型的な共依存の姿。ああなんて人間らしい!」
「あー……これは貶されてるのか?俺は怒ればいいのか?」
「なんて愛嬌があるんだ君はぁ!君みたいな人間が身近にいるって本当に嬉しいよ!」
「……まぁお前がよければそれで」
「ドタチンラブ!俺はドタチンが好きだ!」
「えっうっおおおお?」
「いざっ臨也さん!?」
「ドタイザッ!いいえこれはイザドタ!?キターッ!」
狼狽えるドタチンや遊馬崎とか興奮する狩沢さんとか、んなもんハイになった俺が気にしてられる筈もない。
自分の気持ちを素直に話すって、実は結構緊張するんだからさ!
「だから、だからこれからもいい同窓生として……いや、是非とも良識ある知人……本音を言えば、一生お友達でいてほしいよ」
「え……」
やっと言いたいことを言い切ってスッキリした。
うわっ俺ってば興奮しすぎて、本音駄々漏れだったよ。
だいーぶ失礼な例えだったから怒ったかな?
なんて思いながらドタチンを見やると、何故かドタチンは手を地面につけ項垂れていた。
「え?そんなにショックだった!?」
「トモダ……チ……」
「そうそう友達!ドタチンを貶したつもりはないんだよ?誉め言葉に聞こえないだろうけど、本気でドタチンは愛らしいなぁって。俺にしては素直な感想だからね!?そりゃあ俺みたいに人でなしな奴と友達になんてなりたくないだろうけど、でも俺はドタチンみたいな人間と普通に友人関係を築けたら、嬉しいなって思ってるよ」
「……友達から、とかなしで……一生……一生……うぉぉおおお!」
「ドタチン!?」
突然、ドタチンは日本酒を瓶ごとラッパ飲みしだした。
グビグビと水のように酒を飲み干し、そして真っ赤な顔を歪めたまま。
「俺はっ俺は自分が不甲斐ねぇ!」
「はい?」
「こんなッ不運に見舞われてるお前を俺は……俺はお前と友達になる価値さえないぃぃいいいー!」
「えっえええ!ちょっドタチーン!?」
訳の分からないことを口走りながら、何故かドタチンは走って行った。
「なんで?え?俺そんな変なこと言った?」
「変っつーか、たしかに例え自体は変なんだが」
「それより後半が致命傷っすね」
渡草も遊馬崎もなんでか神妙な顔をしてた。
何故か目を合わせてくれないのがまた、不吉。
そんで一番騒ぎそうな狩沢さんはといえば。
「なんてすれ違い!これは神からの門受を描けという神託?それとも仁義と友情、劣情の狭間で葛藤した果てに真実の愛を悟った逆転劇!ここからドタチンの怒涛の攻めアタックがくるの?!」
うん、さっぱり解らない。
判っていることはひとつ。
オタク。オタク。オタク。
ビニールシートの上にはオタク属性オンリー。
「俺、取り残された!?」
〜続きます〜