BASARA

□手つなぎ鬼
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君は手つなぎ鬼ってした事はあるかい?
鬼に捕まった者は、鬼と手をつないで新たな鬼となる……こういう遊びさ。
子供の遊戯とは云え、なかなかに恐怖心を煽るものだとは思わないかな?
だって、この遊びは終焉しか訪れないんだよ。
例えば最後まで逃げきった一人が勝者だとしても。
逃げれば逃げるほどに鬼が増えるなら、やがて最後に残る一人は――……



ほら、君も怖くなったろう?


勝者も、敗者さえも存在しないのなら、この遊びは何のために行われるのか。
逃げるが勝ちか、捕まるが勝ちか……



君なら、どうする?






〜臆病な男の場合〜


手をつなぐのは苦手だ。
その自覚があるくらいには、手をつなぐって行為に躊躇いがある。
つーか、そもそも手をつなぐ必要ってあんまないっしょ?
小さい子供であるまいし。
ましてや俺様は忍な訳だし、不用意に手をさらけ出すにはいきませんって。


……なーんて、ごまかしても無意味ってか。
まぁさっきのだって本音なんだけどねえ。


でもさ……なんだろうね、うん。
言ってしまえばありきたりな答えなんだろうけど。
俺様の手は汚れているから……とか?


別にその事を今更どうこう思う訳じゃないけど。
忍なんだから当たり前だし、この血まみれの手を恥とも害とも思っていない。
でもさ、どうしても。
たった一人だけ、この手を伸ばせない存在がいる。
悪戯で豊満な体に触れてみたり、我慢できずに怪我の治療をしてやった事もあるくせに。
でも、けれども、素手で触れる事は躊躇われて。
ましてやあの手に指を絡ませるなんてさ。


……ただそれだけなんだ。


どうなんだろうー。
例えばさ、旦那に子供が生まれたとして――困った事にその未来はまだまだ先みたいだけど――俺様はその子を猫可愛がりする自信あるよ?
もちろん厳しく躾けますが、その倍以上に撫でくり回して、沢山遊んでやるだろうね。
おしめを交換して、抱っこにおんぶに高い高い。
その子が立てるようになったら、小さな手を握って一緒に旦那の屋敷に帰る光景が目に浮かぶ。
そうさ、薄汚れた手で純真無垢な赤子に触れることを、俺様は罪だと感じないよ。
我ながら面の皮が厚いと思う。


でもいいんだ。だって旦那は赦してくれるし。
俺様は自信を持って言える。
旦那と、旦那の愛する人達に害を成さないと誓える。


だから、ホントに、手をつなぐ事を躊躇わない。


なーのに、どうして惚れた女には出来ないんだろうね?
ばっかみたい。




……あのさ、すっげーくだらない昔話していい?
俺様さ、初めて任務で人を殺した時、かすり傷負っちゃったんだよ。
手のひらを自分のクナイで少ーし掠っちゃってさ。
我ながら情けないねぇ。それだけ未熟だったって事だけど。
しかも俺様はそんな傷に気づく余裕もなくて、それよりもあちこちに浴びてしまった返り血が不快で。
そうなる覚悟はできていた筈なのに、俺様は報告が済んだら逃げるように部屋に戻った。
誰にも無様な姿を見られないように、こっそりと。


そこに、あいつはいた。
冷え症なくせに薄着のまま、寒い夜空の下で鼻と指先を赤くして、あいつは待っていた。
びっくりしたさ。
けれどそれを悟らせたくはなかった。
普段通りに軽口を叩いてあいつを帰そうとした、
里に戻る前に上着は脱いで目立つ所は拭ったから、大丈夫だと油断していたんだ。
けれどあいつは、いきなり俺様の手を掴んで叫んだ。
怪我をしてるじゃないか馬鹿!
そう怒鳴って、凍えた指をぎゅっと絡ませた。
俺様はあっけに取られて、そしてぎょっとした。
繋がれた手のひらを伝って、あいつの白い手が紅く染まった。

――血は、返り血は拭ったはずなのに!

咄嗟に手を振り払ったさ。
そして感じた僅かな痛みに、この血が自分のものだと、ようやっと理解した。
白い手を汚した血は自分のそれで。
自分の行動に文句を言いながら手当てを始めた少女は、やはり自分が知るままの幼なじみで。
口では冗談を言いながら、いきり立つ幼なじみをからかいながら、俺様はただただ、ただただ。




安堵した。





俺様はあいつとだけは手をつながない、つなげない。
あいつの手がどれだけ血で汚れていようと、もう二度と、俺様の手であいつの手を汚したくはない。


だから、だからさ……お前、やっぱり忍やめろよ。
俺様がお前を殺さないで済む、そんな保証をくれよ。
俺様はもう一度、お前と手をつなぎたいんだ。



お前と手をつなぎたいんだ――……





――かすが。
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