オリジナル一次創作 短編

□退魔士世界のクリスマス&正月 前編
1ページ/3ページ

天乃狐月編


空から白い雪がしんしんと降っている。
クリスマスの飾り付けをされた周りの建物が薄く雪化粧をされていて綺麗だと感じたと同時に肌寒くも感じた。

一番街の路地の片隅で頭に狐耳を生やして透き通りそうなほどに白く、
一見女性かと見間違うほど細く華奢な身体をした白い少年、狐月は白い息を吐き身を震わせた。

狐月「寒い……これが、冬の……雪……なんだ……」

命月『そうだ。話はしたが見るのは初めてだったな。』

狐月「うん、冷たくて寒い……けど、綺麗だね。」

寒さで震える自分の身体を抱き締めながら脳内に響く命月の声に応えた。

狐月「でも……クリスマスって何?」

命月『さあな。俺のいた時代<とき>はなかったな。魔族との戦いでする暇がな……』

狐月「そうなんだ。じゃあ今回は一緒に楽しむことができるね。」
空月「狐月」

突如声を掛けられて振り向くと白銀の髪に灰色の霊衣を着た青年天乃空月が片手に薄茶色の紙袋を抱えて立っていた。
それに狐月の表情が驚愕に彩られるがすぐに表情を綻ばせて傍に駆け寄る。

狐月「空月!」

空月は紙袋を持っていない方の手でそんな狐月の頭を撫でる。

空月「ちょうどお前を迎えに病院に行ったがもう退院したと聞いて探してたんだ。」

狐月「そうなんだ。空月にも連絡をしようと思ったんだけど、どこにすればいいのか分からなくて……」

空月「悪いな、此方も仕事が多くてな。言い訳にならないが」

狐月「ううん、いいよ。空月も母さんも忙しいのは分かってるから大丈夫だよ。」

空月「っ…………」

空月は一瞬呻き声をあげ表情が暗くなるがすぐに優しげな表情に戻る。
しかし狐月は何故哀しそうな表情をするのかが分からない。

空月「そうか。じゃあ行くぞ。」

狐月「行くって、家に帰らないの?」

空月「ある人がお前をクリスマスパーティーに招待したいと言っていてな。それで迎えに来たんだ。」

狐月「え、でもそれは?」

空月「その人に頼まれて足りないものを買ったんだ。時間が惜しい直ぐに行くぞ。」

狐月「え、うわっ」

未だに疑問符を頭に浮かべる狐月の手を引いて小走りで行くと狐月は驚き抗議の声をあげようとしたがギュウッと握られた手から震えを感じて押し黙った。

狐月「(空月の手……震えてる……何で……?)」

今の狐月にはその理由が分からなかったが、握り締められた手を優しく握り返した。


命月『(狐月……お前は……)』




空月に手を引かれて初めて人混みに飛び込んだ
何度も押しくら饅頭のようにごちゃ混ぜにされながらも抜けると突き当たりを左に曲がり駅に着いて空月が僕の手を離しポケットから紅い手帳の様なものを見せて戻して僕らは紅い列車に乗り込んだ。

狐月「(うぅ………)」


気分が悪い……


命月『大丈夫……じゃないか。無理もないな、お前にとっては何もかも初めての経験だからな。』

狐月「(ミコトは初めてじゃないの?)」

命月『ああいうのは何度も戦場で経験しているからな。なに、お前も直に慣れる。』

狐月「(ん、そう、なんだ……)」

暫くして紅い列車が小さな音を立てて停車した。
列車を降りると同時に僕の手を引いて再び小走りで複雑な路地を奥に奥に進んでいくと
見えてきたのは周りの屋敷よりも一回り大きく青い屋敷だった。

本でしか見たことがない大きな屋敷に圧倒されていると
門の前に燕尾服のようなものを着た初老の老人が現れ
お辞儀をして僕らを招き入れた。

そして初老の執事の後を付いていった先で案内されたところは
眩い光に包まれていて着飾った人間がたくさんいる豪華絢爛な大広間だった。


執事「もうすぐ旦那様がお越しになりますので 此方でお待ちくださいませ。」

狐月「え、あ、はい。」

執事は狐月の緊張を感じ取ったのか大丈夫ですよと声をけて緊張を和らげさせようと撫でて空月から紙袋を貰い去って行った。

狐月「え、あの、なんで頭を……」

命月&空月「『お前は頭を撫でられるのが好きだからいいんじゃないか?』」

狐月「か、からかわないでよ2人とも………」

空月「俺や空狐がやると可愛く喜ぶくせに」

狐月「か、かわいい……!?僕は男なんだけど……」

空月「そうむくれるな。逆に可愛いから。」

狐月「………怒るよ」

空月「はははっ、ほらそう言わずに食え。美味いぞ」

空月はケーキを一切れを皿にのせてフォークで小さく切り分けて狐月の口に突っ込む。

空月「美味いだろ?」

不満げな目をした狐月だが咀嚼をしていくと段々と明るい表情になっていく。

狐月「うん。甘くて美味しい。」

空月「それはよかった。」

そんなやり取りをしていると赤髪の貴族の男が此方に近づいて話しかけてきた。

赤髪の男「そちらの白いお嬢さん、俺と一緒に話でもしねえか?」

狐月「え、あの……」

いきなり話しかけられた狐月が困惑していると空月がその男と狐月の間に割り込んだ。

空月「失礼だが、まずは自己紹介からだと父に言われた筈だが?」

狐月「空月、知り合い?」

空月「一応な……この屋敷の主の息子の」

炎「零乃 炎だ。よろしくな」

空月「話は済んだだろ、行くぞ狐月。」

炎「あ、おい待てってお嬢さん。あんたの名はなんて言うんだ?」

狐月「え、あ、えと……僕は」

空月「狐月だ。」

炎「なんでてめえが言うんだよ……俺はお嬢さん、狐月に話しかけて」

空月「闇に……父に言われていた仕事はどうした。」

炎「う……だ、大丈夫大丈夫!!親父には分からないから!!」

??「誰が……分からないと?」

炎「そりゃあ……って、親父ぃぃっ!?」

いつの間にか炎の後ろに白髪の長身の男が不機嫌そうな表情で立っていた。

闇「なあ炎……俺はお前になんて言った?」

炎「え……遠征に赴いて食糧や人材の確保です……」

闇「そうだな、それで裏口で見送りにいって時間になっても二時間過ぎても来やしない馬鹿息子を探しに来たらこんなとこで……しかも、その格好を見るからに準備もしていないときた……」

炎「す、すいません……」

闇「謝ればすむと思うな馬鹿が。お前のその行動のせいでどれだけの人が」

空月「闇、少しいいか」

闇「空月、止めるな。」

空月「止める気はないさ。ただこの祝いの席でそんな話は止めておいたほうがいいぞ。クリスマスと一週間も早い正月の先取りの重大イベントなんだ。」

闇「……お前の言う通りだな。分かった……改めて自己紹介をしよう。俺はこの屋敷の主、公爵の零乃 闇で、この馬鹿が義理の息子の炎だ。」

炎「ば、馬鹿って言う……いえ、ナンデモアリマセン。」

炎は反論しようとしたが闇に睨まれて押し黙った。
狐月は空月に促されて自己紹介をした。

狐月「は、初めまして天乃 狐月……です。」

闇「キミのことは空月からも良く聞いている。斬月……キミの父にもな。」

狐月「父さんを……知っているの?」

闇「ああ」

闇はさっきとは打って変わって優しい表情になって狐月の頭を撫で回す。

狐月「ぁぅ……何で皆僕の頭を撫でるの?」

闇「嫌か?」

狐月「嫌じゃないけど…………」


狐月は頭を撫でてくる闇の言葉に頬を赤らめさせて俯いた。


炎「あぁっ!!ずりぃぞ親父!!俺にも撫でさせ……って離せよ!!」

空月「断る。闇に部屋へ連れていくように言われている。」

炎「い、いつの間に!?は、離して〜〜!!」

炎は空月に首根っこを捕まれてズルズルと部屋に引き摺られていった。

闇「すまんな騒がしい奴で、続きはキミの部屋でしよう。部屋を用意してある。」

狐月「あ、ありがとうございます。でもいいんですか?」

闇「気にするな。俺はキミの事を気に入っている、敬語は要らないぞ、空月にするように普段通りに接してくれればそれでいい。」

命月『ふふ……好意は受け取っておけ。(本当に可愛いやつ……)』

狐月「う、うん……」

狐月は闇に連れられパーティー会場から離れて二階の部屋に入る。
部屋に入ると白色の壁に絵画が掛けられていて机に小さな本棚がありその向かいに大きめなシングルベッドがあった。
そして暫く二人は話していると窓から見える空が黒くなっていたのが分かった。



闇「もうこんな時間か随分と話し込んでしまったな。」

狐月「うん、色々な話を聞かせてくれてありがとう。楽しかった。」

闇「それはよかった。そろそろ眠れ明日は初詣に行くからな。」

狐月「はつもうで?」

闇「神代神社で一年の感謝を捧げたり祈願をするということだ。」

狐月「そうなんだ、また一つ勉強になったよ。」

闇「ふふ、それはよかった。」

狐月「あ……」

闇「どうした?」

狐月「ううん、何でもないよ。お休みなさい。」

闇「………そうか。お休み狐月」


ガチャ



バタン


狐月は暫く闇が出ていった扉を寂しそうに見ていたが頭を振ってそんな考えを振り払いベッドに入った。



年賀 初詣編に続く

NEXT→天乃空月編
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ