螺旋の聖譚曲
□第五楽章 『流浪の劇団[雫の夜明け]』
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「やっほーヴォルフちゃんッ」
「その声は…。」
元気のいい声にうんざりとした表情でヴォルフは窓をあける
「よ!久しぶりぃ」
ゆるゆると手をあげる金髪に蒼い瞳、チェロを持った青年がいた。
「お久しぶりです。」
「あーあ。もうすっかりお坊ちゃんって感じ?」
「元からです。」
「いや更に磨きかかったってぇ」
嫌そうに応対するヴォルフとそれに気づいているのかいないのか話しかける青年を見て、アンナは問いた。
「その方は誰なんですか?」
すると今気づいたらしく青年はおぉ!と歓声をあげる
「しかも美淑女連れかー!」
「いや、あのですね…」
「ねぇねぇ、ヴォルフなんか止めて俺と付き合わない?」
「……。」
アンナにズイズイと迫る青年にヴォルフは無言で持っていた楽譜で頭を叩いた。
「ア痛っ」
「調子に乗りすぎですよフランベルジュ」
青年――フランベルジュはむすっとする。
「しょうがないでしょ〜。
俺なんて、こんな美しい子なんか滅多にお目にかかれないんだからさぁ。
しかも!女の子だって屋敷にいないし?」
「それは貴方が女たらしだからご家族が配慮したんですよ。馬鹿にも程があります。」
今の会話をクスクスと聞いていた双子に対してさらにフランベルジュは目を丸くして「ちょっと」とヴォルフに耳打ちする。
「え、何お前…子連れ?最初に言え…って痛いッ!痛いって!!!」
「この…馬鹿!愚か者!私はそんな事しません!馬鹿!」
べしべしと叩くヴォルフをアンナは唖然と見る。
何しろ屋敷の時とは打って変わった、
それこそ普通のヴォルフの年齢の青年のような態度や感情を露にする彼はとても幸せそうだった。
それこそ表情では嫌そうにしていても、拒まない事からそこまでではないのがよくわかった。