螺旋の聖譚曲
□第弐楽章 『乱闘そして乱奏。』
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まだ乱闘が始まる15分ほど前。
アンナの"理由"を聞きながらヴォルフは馬車を進めていた。
アンナは本名を「アンナ=クラウディア」といい、由緒正しき貴族家庭だったのだという。
そんな家庭の中、アンナは一族唯一の音楽士の資格をもつものでとりわけ特別可愛がられていた。
当然一族内の同世代に忌み嫌われ、皮肉や嘲りが普通の日々だった。
しかし、アンナは幸い『セント・クィスーム』入学が決まり、寮生活だった故に隙あらば殺そうともする一族から離れて暮らしていた。
しかし、卒業と共にアンナの従姉妹、ネルラの策略で一族から追い出され、
さらに人売りに売られそうになった彼女はなんとか売られる前に逃げ出し、ヴォルフの叔父に助けられた。
「…つまり貴方は『人売りから身を隠す為』に私の屋敷に来たのですね?」
「ええ、女性という自体は珍しくはないのでしょうけど。
でも音楽士なら別でしょう?
人売りが最近活発になっているみたいでそれを利用されて…
どうしたらいいか悩んでいたら
貴方の叔父様にあったの。」
(『人売り』…ですか…)
ヴォルフは暗い顔でいた。
おなじ種族を売るなんて、どうかしている。
ましてや法律上でも禁止されているのにも関わらずそれを行うなんて、ありえない。
(…まぁ買う人間がいるから売る人間がいるんでしょうが…)
そういう人間は人をなんだと思っているのだろうか。
「…反吐がでますね。」
音楽士としても。
人間としても。