螺旋の聖譚曲
□第壱楽章 『驢馬は道を行く』
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数日前。
ヴァイルシュタイン家では長男がセント・クィスームから帰ってきて以来、ようやくとも言える一人立ちの日だった為にかなり忙しかった。
女中や執事だけでなくヴォルフの友人や親戚までが手伝ったほどだ。
音楽士親戚らの中には昔使っていたものや役立つものをヴォルフに譲り渡した。彼はそれを喜んで受け取り、丁重に感謝を述べた。
また、そうでない者も音楽士専用の軍に入るであろうその長い道のりのために馬車に食料、金や生活必需品を注ぎ込む。
ヴォルフは感謝してもしきれないそれになんどもお礼を述べた
「すみませんね…何から何まで。」
「いえ、ヴォルフ様の大事な出発ですから!」
「皆、ヴォルフ様の為だけではなく、自分から動いているのです」
「本当に、立派ですよヴォルフ様。誇りにしていいと思うわ!」
幼い時から見知っている女中や執事、親戚にそう言われれば「ありがとうございます」と頭を下げた。
そして、準備が出来たと同時にヴォルフは馬車に乗り込み、御者はそれを確認すると馬車を動かした。
壮大なそれらは見た目とは裏腹に軽やかに動きだし、安定したスピードで走り出した。
一族は見えなくなるまでいつまでも門でヴォルフを見送っていた。
ヴォルフもまた、見えなくなるまで背後にいる家族に視線を傾けた。