螺旋の聖譚曲

□第五楽章 『流浪の劇団[雫の夜明け]』
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(叔父様…)

いつだったか、ヴォルフの叔父は
彼がどこか無理をしているようだと呟いていたのを思い出したアンナは
目を瞑り、にっこりと微笑むと遠い屋敷にいる主人に心の中で報告する。

(――とても、幸せそうですよ。)

と、ようやく言い合いが収まったのかヴォルフ達は何やら真剣な話をしていた。

「え、それでその子は…?」
「わかりません。ただプロイセンの方向に行ったのはわかっていますが。」
「プロイセンの方向って…もっと遠くのオランダとかだったらどうするよ?」
「ならそこまで行けばいいでしょう。
どちらにしろ私は彼女を手放すつもりはありません。」

ヴォルフの言葉にフランベルジュは呆れたように前髪を掻き上げる。

「そこまで行くって…お前の馬車はどう見たって近い所なら問題ない馬車だろうが。
遠くまでもつ馬車じゃない。」
「なら買いますとも。」

はぁぁ…とため息をつきフランベルジュは仕方ない、と言った。

「なんでこんな並んでるのか知ってるか?」
「?旅一座が来るからだと聞きましたが。」
「ただの旅一座だと思う?」

ヴォルフはフランベルジュの言葉にようやく意味がわかって目を向けた。

「……つまり」
「つまり俺、『フランベルジュ・ブラウバルト』が率いる『雫の夜明け』の一座が来たからなのさ!」

ブラウバルト、という言葉にロッドとルシアはええ?!と声を上げた。

「お兄さんがブラウバルトなの?!」
「信じられない…もっと紳士だと思ったのに…」

失礼な子だなぁと笑うとフランベルジュは手を差し伸べる。

「旅一座の馬車は丈夫だからさ。
それにちょうどこの公演…まぁ一週間くらい?が終わったら行く宛ないし?
お前らに合わせてあげるけど?

もっちろん俺の所で働いてくれたらね♪」
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