螺旋の聖譚曲

□第零楽章 『とある街中のパレードにて』
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「お願いです!私、なんでもしますから!!」

派手なアンティークで飾られた『ブレーメンの音楽隊、風の妖精(シルフィード)』
とドイツ語で称号名が書かれた看板のぶら下がる馬車の中からそんな声が聞こえた。

男は何事だと馬車に入ると、そこには女がいた。そう、裏道に消えた女だ。

女は高貴そうな格好をしていた。
流れるドナウ川のような蒼く、長い髪をバレッタで纏め、ドレスは光の加減で濃淡へ変わる為、
男は立派な生地であるのが見てわかった。

「どうしたわけだ?」
「ああハーリエス団長、よかった。」

ほっとしたように女の相手をしていた青年は肩を下ろす。

「入団希望者ですよ。他の奴等は追い出しましたが、こいつだけはなかなか――――」
「お願いです!私を音楽隊に入れてください!」

ハーリエス団長と呼ばれた男性はその深い茶色の目を女に向ける。

「…何か演奏ができるのか?」
「歌なら、私得意です…音感だってありますし…。」

女は美しかった。

恐らく入れても邪魔にはならない。否、むしろより有名になれるだろうとハーリエスは思った。

しかし、演奏ができないのではなぁ、とため息をつく。

「……我らはサーカスではないのだよお嬢さん」
「お願いです!私なんでもしますから…」

しかし、ハーリエスは首を縦には振らなかった。

彼らは四重奏を奏でる者。突然それを聖譚曲にするのは抵抗があったのだ。

お嬢さん、と言いかけたときハーリエスの目に青いサファイアのペンダントが移った

「それは…」
「!」

女はあわててペンダントを隠そうとするもハーリエスに手をとられ、それは叶わなかった。

「そのサファイア…まさかブラウバルト…?」
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