螺旋の聖譚曲

□第五楽章 『流浪の劇団[雫の夜明け]』
1ページ/6ページ


第五楽章 【流浪の劇団『雫の夜明け』】


プロイセンとオーストリアの国境にある門で、ヴォルフ達は足止めをされていた。

と、いうのも、今日はプロイセンのとある町でなにやら旅芸人が来るとの事で
近くからはもちろん、すこしばかり遠い人間も馬車に乗ってプロイセンまで来ていた。

門の前にはいないように見えた人影も、
門のトンネルの中に入るとどれだけの人数がぎゅうぎゅうになっているかがすぐにわかった。
「98…99…100…101…ひゃあ。
いっぱい居てもうわかんなくなっちゃった」

村からでた事のなかった双子の妹、ルシアが馬車から顔を覗かせていた。

先ほどまで何人いるかロッドが数えていたのだが、
途中で飽きてしまった兄と交代して数えていたのだが計り知れない大人数にだんだん目眩がしてきた。

「ざっとみて250人程度ですね」
「ヴォルフお兄ちゃん凄い。なんでわかるの?」
「一つ一つではなくて十単位で数えれば早く計算できますよ。
それより、アンナ。あとどれくらいです?」

ルシアに微笑んだあと真剣な顔つきで御者台にいるアンナに声をかける

「午前中には多分無理ですね…。それにしても旅芸人はいつでも人気があるものなのですね。
確かヴォルフ様の叔父様も率いていましたよね?」
「ええ。『風の妖精(シルフィード)』を、ね。」

憧れるような眼差しでそう言った後、ヴォルフは苦笑する。

「…まぁ、先にブレーメンに呼ばれていますから行かなくてはならないのですが。」
「そうでしたね。」

するとロッドとルシアが興味津々として聞いた

「え、なんで?」
「なんで呼ばれてるの?」

するとアンナは自分の主人であるヴォルフが音楽士としていかに優秀か、
また、呼ばれた内容を話した。

「…それで、ブレーメンにあるセント・クィスームの学園長が模範生としてヴォルフ様を呼んだのよ。」

「呼んでどうするの?」

ルシアの質問に今度はヴォルフが答える

「セント・クィスームに呼ばれる事は大変な名誉ですから。
それに私にもよくわかっていないのですよ。
『楽しみはとっておく』という方でしたからね…。」

陽気でお茶目で冗談が好きな学園の先生達の性格を思い出しながら苦笑する。

「まぁ行かなければどっちにしろわかりませんからね」


それにしてもなかなか動かないとヴォルフは前を見ようと馬車の窓を通して見ようとした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ