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□『相妃小説4』
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カランカラン
「いらっしゃいませー。あれ、子供?」
「あいいろのかみのてんいんさんはいますか」
ゆっくりとドアを押し開け入店して来たのは、金髪の幼子。小さな口を動かし、そう訊ねた。
「相馬さん?相馬博臣さん」
「あいっ!そのひと!」
パアっと顔を綻ばせたその子は、嬉しそうに髪を留めていた金魚の髪留めを握った。その様子を見た小鳥遊は、お持ち帰りしたい衝動に駈けられながら、小さいお客様を裏に案内した。勿論抱っこして、だが。
「君はお名前、なんて言うの?」
「こんどうひめ、3しゃいです!」
小さな指を3本たて、高らかに自分の名前を言う姿につい、小鳥遊は姫の頭を撫でる。
(癒やされる…)
そうしているうちに、休憩室の前まできていた。
ひょこっと顔を覗かせると、種島と伊波がお茶をしていた。他は表や厨房にいるようだ。
「か、か、か、かたなしくんがとうとう女の子誘拐して来たぁぁぁぁぁぁあ!?ダメだよ、かたなしくん!今すぐ親御さんに返しに行かなきゃ!」
「た、小鳥遊くん…」
「違いますよ!先輩!伊波さんも顔を青ざめないで!相馬さんに会いに来たんだそうです!」
2人は小鳥遊の腕の中にいる子供を見て、誘拐したんだと勘違いし種島は叫び、伊波は殴らないよう距離をとりながら顔を青ざめた。
小鳥遊は、叫び返し状況を教えた。もっとも、種島はパニック状態だったのだが、どうにか状況を説明できた。
「へ?相馬さんに?」
「はい、相馬さんに」
舌っ足らずな言葉で姫も返事をする。すると後ろから、声が聞こえてきた。
「俺がどうかしたのー?」
「種島さんどうかしましたか?」
「2人とも五月蠅いぞ」
「どうしたー」
「あらあら、どうしたの?」
「五月蠅いわね」
上から順に相馬、山田、店長、佐藤、轟、松本である。
姫は相馬を見た途端、相馬に抱きつき叫んだ。
「おとーさん!」
「お、お父さん!?」
全員の心の叫びが一致した。だってあの相馬が父親だ。ていうか相馬はまだ22歳だ。父親の歳ではない。
「っ!?姫!?何でここに!近藤さんや榊さんは!?」
「ないしょできた!」
しっかりと姫を抱いてから、問いただす。3歳の子供は普通、1人で外出しないのだ。疑問に思わない小鳥遊も小鳥遊だが。
「相馬、そいつはお前の娘なのか?」
動揺しているのか、少し指を震わせながら姫を指差し、佐藤が皆の代表で相馬に訊ねる。
相馬は少し気まずそうに目線を逸らし、小さく頷いた。
「確かに似てますね。目元とか、口元とか」
山田が相馬の腕の中にいる姫を覗き込み、呟く。
「まぁ、こん、この子のお母さんとは結婚してないんだけどね」
「は?」
「だってお腹にできたの18の時だし、生まれたの19の時だもん。あと、もう顔見せんなって言われてるし」
「でも、おかーさんくるよ?なかなおりしよーよ」
しんみりとした顔で語る相馬に、全員が唖然としてると姫が爆弾を投下した。
(え、近藤さん来るの?)
「だから、なかなおりして?」
笑顔でもう一度告げた姫は、ゆっくりと相馬を見つめる。
周りの皆は、なにがあったか解らないが全員頷いていた。
その直後、バンっと大きな音の後に休憩室に顔を覗かせた、金髪美女。
焦りを滲ませた顔で中を見渡す。着ているのは私達と同じ制服。左手の薬指には鈍く光る指輪。
「っ近藤さん!」
「相馬、に姫!良かった。いた」
安心したように崩れ落ちた彼女を見て、全員が母親だと理解する。
「大丈夫!?」
小走りで近寄り、姫を渡す。姫を抱きかかえ、相馬を見上げた。
「久しぶり」
「うん、久しぶり。その指輪…」
指輪は昨年の誕生日に相馬が押し付けた物だ。それを知っていた佐藤は、そっと彼の背中を押した。
「えと、そーゆー意味で受け取っても良い?」
「…遅い」
ぼそりと呟いてから、静かに、妃は相馬の手を取り唇を重ねた。
「ずっと、待ってたっつの」
伊波と松本、轟は顔を赤くし、店長はパンを食べ、種島と山田は喜び、佐藤と小鳥遊が無言でムービーを撮る中、2人は漸く長年の恋に終止符を打ち、静かに2人で指輪に口付けをおとした。

(やっと、結婚かよ。焦れったいし、まぁ良かったな相馬)
(これからもよろしく、妃さん)
(こっちこそよろしく…博臣)
(あいっ!)

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