Novel
□猫耳は萌えアイテムです
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「じゃーん」
相馬が風呂から上がってきたら身体の一部が増えていた。
頭に2つのもこもこ三角形。…俗に言う、猫耳。
テレビを見ていた佐藤はその異形を視界に収め、ほんの少しだけ口を開けて
1秒、2秒、3秒…
「……相馬」
「なに?」
「明日は雪らしいぞ」
「まさかのスルー?!お願い突っ込んで俺ただの痛い人になっちゃうからッ!」
場所は佐藤の家。こんなアホな会話をしながらも人から「どんな関係?」と聞かれれば「一応恋人」と答える二人である。今日も今日とて仲良しだ。
「…で、どうしたんだそれは」
「山田さんから貰った」
「返してらっしゃい」
「そんな、お母さん…!」とノリノリで小ネタをし始めたが、早々に飽きたのかあっさりと経緯を説明し始める相馬だった。
刻は遡りワグナリア↓
「2月22日はね、猫の日なんだよ!」
可愛らしい声を高々に上げ、ワグナリアのマスコットキャラクター兼ホールスタッフの種島ぽぷらは妙に得意気な顔でカレンダーの日付を指した。
「ほら、『2』が三つ並んでるでしょ?にゃんにゃんにゃん…で、猫の日!」
「ほほう、成る程。言われれば納得です」
「にゃんにゃんにゃん…、猫の鳴き真似をする先輩もカワイイ!」
「ペットフード協会が決めた記念日なんだよね。因みに反対に犬の日もあって、そっちは11月1日なんだよ」
種島、山田、小鳥遊、相馬…と続くメンバーの4人が揃い、フロアとキッチンを繋ぐ裏と呼ばれる場所でのんびり談笑していた。
ワグナリアは今日も暇である。
「あれ?相馬さん、前に犬の日は1月11日だと仰っていませんでしたか?」
「ああ、あれ?正式には11月の方が犬の日だよ。『同じように数字が並んでいるならどっちでも良いじゃない』っていう声もあって、半ば暗黙的に。犬好きが」
「ちょ…、誤解と敵を生みそうな発言やめてくださいよ」
「でも記念日が沢山あるのはいいことだよっ」
「犬も猫もかわいいもんねっ」と、ぴょんこっと跳ねて、頭の上で手を耳のようにぴこぴこ。
それを見て三人が
「かわいいなー」
「かわいいです」
「かわいいねぇ」
「…あれ?なんでかたなし君なでなでするの?あ、葵ちゃんもどうして私の頭を撫でるのかな?…相馬さんまでッ?!ああ、トリプル…ッ、トリプルなでなでは新記録だよ…ッ!」
「………」
「……てな会話があってね」
「馬鹿じゃねぇの」
佐藤宅、なう。
「つかお前ら仕事しねーでそんな事してたんか。こっちは厨房で地味に仕込みだなんだしてんのに、てめえは…」
「あ、待って、やめて、話まだ途中だから、いたいいたい、耳は…本物の耳は引っ張っちゃだめぇぇぇ」
割と容赦ない力だった。
大丈夫、これも佐藤の愛情表現だから!
「うぅ…佐藤君のスキンシップが激しすぎる…。で、それで山田さんが『それなら皆さんでこれを付けましょう』って言って猫耳配って…」
「なんでそんなもの持って…いや、もう今更か」
「山田さんなんでも持ってるってすごいよねー。でね?どうせ貰ったんなら折角だから佐藤君にも見せようと思って」
どう?と小首を傾げてふにゃりと笑う。
ふわふわの猫耳とほわほわした笑顔の相乗効果で『愛らしい』と表現される姿である。
相馬は見た目だけなら癒しキャラなのだ。
「似合う?」
「…まぁ、それなりに」
「可愛い?」
「かもな」
「萌え?」
「すいませんそういうのはちょっとよく判らないんで」
「さとーくんノリ悪ーい」とクスクス笑いながらするりと膝の上に乗ってきた相馬。
そのしなやかな動きに、成る程猫のようだと佐藤は妙に納得する。
「……あー、萌えとかそういうのは分かんねーけど」
「けど?」
「多少興奮はするかもな」
「…おぉ、佐藤君がデレた」
「うるせぇ」
黙らせる為に目の前の鎖骨にかじり付く。
そのまま舌と唇を這わせ喉元へと辿れば相馬の口から甘い声が漏れた。
「…なぁ」
「ん…、…なに…?」
「どうせなら『にゃー』って鳴けよ」
「ええー?やだ佐藤君ったらそういうプレイがお好きな人?さとーくんのヘンターイっ」
「マジで泣かすぞお前」
ケラケラと笑い可愛くないことばかりを言うその口に噛み付いて黙らせてやる。
ほんと見た目だけなら愛玩動物なのにな、と胸の内でぼやいて、相馬が愛玩動物なら佐藤はその飼い主らしく可愛がることに専念した。