Novel

□遅いクリスマスの話
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クリスマスも終わり、世間では慌ただしく正月への準備をし始めている中、俺は恋人である佐藤君の家で遅めのクリスマス気分を味わっていた。

恋人同士で過ごすなら本当はクリスマス当日がいいんだろうけど、生憎レストランで働く俺らが書き入れ時に休める筈もなく、やっと二人で休みを貰えたのはクリスマスもとっくに終わった頃。

でも俺としては佐藤君と一緒に休みを貰えただけで嬉しいから全然問題ない。




……問題ない、けど









「………」

コンビニで買った小さなケーキを食べ終え、俺は特に面白いと思わないテレビを眺めた。

因みに佐藤君は少し離れた場所で雑誌を読んでいる。


この微妙な距離感が、俺は寂しい。


(…俺としてはもっとくっついたりしたいんだけどなぁ…)

佐藤君と恋人同士になってそれなりに経つけど、実はあまり恋人らしい雰囲気になったことがない。

二人っきりになっても特にベタベタするでもなく、本当にただ一緒にいるだけだったりする。

そりゃあ佐藤君の隣にいられるだけで嬉しいけど、付き合う前となんら変わらない関係に少し不満を感じるのも仕方のないことだよね?

世間でクリスマスは終わったとはいえまだ余韻は残っている。俺らも恋人同士ならそれなりに甘い雰囲気になってもいいだろうに、そういうのが一切無いってどうだろう。

そんなことを悶々と考えていると、視界の隅で佐藤君が雑誌から顔を上げたのが見えた。

「相馬」

「……へっ?な、なに?」

まさかこのタイミングで声を掛けられると思わなかったから大袈裟に肩が跳ねた。

…やば、俺、声に出して言ってないよね?

不安やら期待やらでドキドキしていると、佐藤君は俺から時計へ視線を移して事も無げに言い放った。

「もう遅いから車で送るか?」

「ええッ?!」

無情な発言に思わず変な声を上げる俺。

あまりにも予想外すぎて軽く二度見するくらいには驚いた。うん。

「…なんだよ」

「だ…、だって佐藤君が…」

「俺が?」

なにか変なこと言ったか?と首を傾げられ、逆に言葉が詰まる。

佐藤君はおかしくない。俺が勝手に意識してただけだし。

でもそうなると佐藤君は俺のこと意識してないみたいで…ちょっと悲しくなった。

「……お、れ」

「ん?」

「今日、さとーくん家に泊まりたいなー…なんて」

終わってるとはいえ気分はまだクリスマスだもの。恋人の傍にいたいって思うのは当たり前じゃない?

まぁ、俺が佐藤君から離れがたいだけなんだけどさ…。


けれど、



「やめとけ」

「なんで?!」




あっさりと拒否られてしまった。




「どうして駄目なのッ?俺ら付き合ってるんじゃないの?」

「は?なにを急に…」

「だって一緒にいるだけで恋人らしいこと全然しないし、そんな…そんなの…、」

「…相馬?」

「っ、俺は…」

あまりの佐藤君のドライさに悲しさを通り越して虚しくなってきた。

佐藤君の傍にいられるだけで幸せなのは嘘じゃない。

嘘じゃないけど…



「もっと…佐藤君の近くにいきたい」



手を伸ばして夢中で佐藤君に抱き付いた。

久しぶりに感じる佐藤君の体温にじんわりと胸が熱くなる。

佐藤君もそろりと俺の背中に手を滑らせて、優しく…けれど確かに抱き締め返してくれた。


…ああ、俺が欲しかったものはこれなんだ。


嬉しくて嬉しくて、もっと佐藤君を感じたいとより身体を密着させたら、途端に強く引き離された。


それは明らかな拒絶だった。


暖かかった佐藤君との距離がすきま風で急激に冷えていく。

「さとーく…」

拒絶されたという事実が俺の胸を強く締め付け本格的に泣きそうになったけど、思いの外真剣な目で佐藤君に見つめられ、上手く言葉が出なかった。

「…いいか?相馬、よく聞け」

「う…ん」

まるで子供に言い聞かせるように、優しく、ゆっくりと一つ一つを区切って言う。


「俺も、一人の男だ。我慢にも、限界がある」

「………うん?」





理解出来なかった。


いや、言葉の意味はわかったけど、内容がわからなかった。


佐藤君が男なのは当たり前だし…

我慢?なにを?


疑問符だらけの俺に佐藤君は溜め息を吐いてもう一度口を開いた。


「お前、俺に抱かれる覚悟はあるのか?」








「え………、







………えええぇええッ?!!」



絶叫する俺に佐藤君は渋い顔で「やっぱりな…」と呟いた。


え、だって、そ、


「お、俺男だよッ?!」

「知ってますがなにか?」


即答されぐらりと視界が回る。

だ、抱くって、俺を?

佐藤君が?


「お前はそんな気無さそうだったから黙ってたけど、予想以上の反応だな」

「だ…って、まさか、そんな…」

そりゃあ男同士でも出来るのは知ってたけど、まさか自分がその身に

あれ?俺と佐藤君は恋人同士だからそうなるのは必然なのか?

でもそんなこと一度も考えなかったし…、だけど佐藤君はつまりそういうことを考えていたわけ、で


「あまり無防備にくっつかれると俺も色々ヤバかったから、お前が自然とその気になるまで距離置いてたんだけど…」

「……う…、」




要するに、その葛藤に微塵も気付かなかった俺は、わざわざ自ら佐藤君のスイッチを押しに行ってしまったと




「で、だ。…相馬」


肩に置かれていた手が徐にゆっくりと二の腕を下りていく。

知らない感覚に身体がびくりと震えた。

軽く添えられているだけの筈なのにやけに熱く感じる佐藤君の手が、何故だか無性に恥ずかしい…


「ぁ……、」


まるで形を確かめるかのように、佐藤君の熱い手が膝から太もも…腰へと這い上がっていく。

いつもの優しい佐藤君の手なのにまるで知らないその手は、俺の深い深いところに入り込もうとしているみたいで…

「さとー…くん、」

落ちそうな感覚に、震える手で佐藤君の服を掴む。

じんわりと溜まっていく涙で視界がぼやけている中、近付いてきた佐藤君の顔だけはやけにはっきり見えた。

…普段は固く結ばれているその口元がほんの少し綻んでいるように見えるのは…きっと気のせいじゃない。


「これを踏まえた上で…お前、俺の家に泊まるか?」



















「…………、

………カエリマス」





必死に絞りだした言葉は何故か片言になっていて、佐藤君に「ふはっ」と笑われた。

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