よみもの

□本日晴天交際日和
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静かな歩道に面したカフェのオープンテラスで二人はブランチをとることにした。もう少し季節が進むと流石に屋外は寒くなるであろうので、このような機会は今年最後かもしれなかった。


「お待たせいたしました」
若い女性店員が、どこか緊張しながらカノンの前に注文の皿を置く。そのまま慌てて店のバックヤードに下がった彼女は、仲間の店員の女の子と「キャー」と興奮した様子で盛り上がっている。瞬はそんな光景を眺めながら、カノンをつつく。

「ねぇ、見てカノン。あの子達、カノンを見て騒いでるよ」


瞬の欲目を抜きにしても、カノンはカッコイイ。均整のとれたスラリした逞しい体躯。繊細な美貌を持ちながらそれを脆弱に感じさせない生命力溢れる瞳。長い金髪も気障ではなく、まるで豪奢なタテガミのように自然に彼を彩っている。そのように稀に見る容姿のカノンが、若い女性に注目されないはずがないのだ。

瞬に指摘されカノンが店舗の方にチラと視線をやると、またもや「キャー」という黄色い歓声が上がる。

「外国人が珍しいんだろ」

いくらカノンでもそんなシチュエーションではないと解っている。しかしせっかくの休日に瞬の機嫌を損ねたく無かったので、なるべくさりげなくやり過ごそうとしたのだった。しかし、カノンの予想に反して瞬はやけに嬉しそうに笑った。

「違うよ、カノンがカッコイイから見てるんだよ」

てっきりむくれるかと思った。以外な瞬の態度にカノンは驚くと同時に少々悔しさを感じ、つい意地悪を言ってしまう。

「何だ、ヤキモチでも焼いてくれるのかと思ったら結構ドライなんだな、瞬は」

平静を装いながらもカノンの言葉の端には拗ねた様子が滲み出ている。瞬は吹き出した。

「だって、みんなの注目のカノンは、僕の恋人なんだもん。ちょっと得意になっちゃうよ」

だから全然ヤキモチなんか焼かないよ。



そう軽やかに笑う瞬に、カノンは本日二度目の撃沈をした。



駄目だこいつ、可愛すぎだろ。こんなにカワイイ生物がこの世に存在するということは、 今すぐここでチューしていいということなのか!?俺の物宣言をしてもいいのか!?

カノンの脳内の妄想など露知らず、瞬は運ばれて来たべーグルサンドに噛り付く。カノンにしてみれば、そんな瞬の方が心配で仕方がない。無邪気な瞬は気がついていないが、視線の半分は瞬が引き付けているようなものだ。整った可憐な面差しだけではなく、瞬は醸し出している雰囲気が普通の人間とまるで違う。内側から輝きを放つような彼の清らかな存在感は、老若男女問わず視線を集めてしまう。その中でもやはりカノンは自分と同じ男の目線を非常に欝陶しく感じていた。通りすがりの男がポカンとした顔で瞬を凝視するたびに、『見るなっ、瞬が減る!』と攻撃的な小宇宙を送り付けていたのであった。


「あれ、何か付いてる?」

もぐもぐと咀嚼していた瞬が、自分を見つめているカノンに気付き頬を拭う。


「ああ、ついてる」

カノンは何も付いていない瞬の滑らかな白い頬に顔を近づけると、ペロリとそれを舌で舐めた。


その様子に周囲で再び黄色い声が上がり、瞬は手にしていたべーグルをぼとりと皿に落とした。先程まで白かった頬は、すっかり朱色に染まっている。

「…カノン…、人前で、そんなことするのはどうかと思うよ…」

弱々しく反抗してくる瞬に、カノンはニヤリとする。

「俺がお前のものだとしたら、お前だって俺のものだろ?皆に見せびらかしたかっただけだ」

瞬は真っ赤になったまま、うう、と力無く唸った。

こういう時はいつだってカノンが一歩リード。先を越されて悔しいんだけど、でもそれがどこか嬉しい。いつまでのカノンの掌の上にいたいなんて、やっぱり僕は甘えん坊だ。


瞬は真っ赤な頬を両手で挟んだ。
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