よみもの

□辰巳の七日間(?)戦争
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「俺腹減ったなぁ。お菓子じゃなくてなんか食うもん無いの?」

ソファですっかり寛いだミロが、向かいに座る瞬に尋ねる。

「お腹空いちゃったの?ミロ。夕食はまだ少し先だよ。ちょっと待って貰えるんなら、軽食くらいなら作ってくるけど」

ミロの子供のように欲求に忠実な発言に、瞬は思わずくす、と笑う。使用人に頼めば何かしら食べる物を用意してくれるだろうが、夕食の準備に忙しい彼等に仕事を追加するのは気が引けたので、瞬は自ら申し出た。


「瞬、お前だって長旅で疲れてるんだ。一人でそんなことする必要は無いミロ、ちょっとぐらい我慢しろよ。お前大人だろ」

瞬の手作り、というのに多少のジェラシーを感じたカノンが、さりげなく阻止すると、ミロはえ〜と不満の様子で言った。


本当に厚かましいな、こいつは。お前は客人じゃなくて護衛だぞ?少しは遠慮しろっ。

辰巳は苛々と駄々をこねるミロを眺めた。


「あ、じゃあカノンにも何か手伝ってもらおっかな♪」

ミロとの間に割って入ったカノンの行動に何か気付く所があったのか、瞬が思わせぶりな目でカノンを見る。カノンは自分の気持ちを見透かされたのに気付き、憮然とした様子でソファにもたれかかった。


「カノンの手料理か。ある意味貴重だな。お前、料理得意なのか?」

面白そうにアフロディーテが問う。

「料理はできん」

ぶすくれてカノンが返す。それにアフロディーテは意外だ、という顔をした。

「結構器用そうに見えるのにな。じゃあ今までは何を食べてたんだ?全部外食か?」

瞬もそれは疑問だった。聖闘士という生活を送ってきた自分達にとって、身の回りのことを自分でするのはもちろん、弟子入りした師匠の生活の世話をするのは当たり前だった。むろん、食事の準備もそれに含まれる。聖闘士にとって、調理の技術は誰もが自然に身につけているものの一つだった。

「まあそんなもんだ。俺はその日暮しのような生活を送って来たからな。食えるものをそのまま食ってきただけだ。食えて栄養になればそれでいいだろ?」

その言葉に、瞬はちょっと寂しくなった。そういえばカノンはサガの双子の弟として存在を秘密にされ、誰にも弟子入りはしていなかった筈だ。一人で生きてきたカノンにとって、食事とは生きる為に必要なただの義務だったのに違いない。瞬はアンドロメダ島での、貧しいながらもあたたかった師達との食卓を思い出した。




「ほら、お前達!お嬢様はお疲れなのだぞ。いつまでもだらだらとここにお引き留めするな!さ、お嬢様。早く部屋でお寛ぎ下さい」

突然の辰巳の乱入に、瞬は思考を中断させた。そういえば、楽しそうにはしているが、沙織は体力のある自分達以上に疲れているはすであった。配慮が足りなかったと恐縮し、瞬もそれに同意する。

「まあ、それでは気遣いに甘えて先に部屋で着替えさせてもらうわ。みんな、また夕食の時にね」



退出する沙織をにこやかに見送ると、辰巳は振り返り打って変わって厳しい表情で彼等を見る。

「さあ、お前達もさっさと部屋に行け。護衛のスケジュールを組んどいたから、ちゃんと忘れずに交代するんだぞ」

言うと、彼はテーブルに一枚の紙を叩き付けた。そこには時間単位で、今日からの沙織の護衛のスケジュールが組まれていた。

「げぇっ、俺今日は深夜から担当かよ。時差で眠いんだよな〜」

ぼやくミロの姿に、辰巳のこめかみに青筋がひとつ増える。

「文句言うな。私だって未明から交代するんだ。眠いのはお前だけじゃないぞ」

アフロディーテがミロを窘める。彼は、何故今回はこいつのお目付け役のカミュがいないんだ、とうんざりした様子で肩を落とした。このマイペースな男を上手く操るカミュを、尊敬せざるを得ない。

「あれ、辰巳さん。僕の名前入ってないよ?」

タイムテーブルに自分の名前が入っていない瞬は、辰巳に疑問を投げかける。

「お前はいつも寝ずの番なんてしてないだろうが。普通にしていろ。いつもと同じ程度の警戒でいい。しか〜し、こいつらは今回護衛のために特別に派遣されてきたんだからな。たっぷり働いて貰わんとな」

フハハ、と笑う辰巳に、瞬以外の三人は彼をジットリと怨みがましい目で見た。

「まあ、確かにその通りなんだがな。ハッキリ言われるとそれはまたムカつくような」

「タコオヤジのくせに生意気だ」




「何だと〜!?無駄口を叩かずにさっさと行かんか!」

辰巳はどこから出したのか、竹刀で床を打ち鳴らして威嚇した。それでお開きになり、居間の面々は渋々己の割り当てられた部屋に移動して行った。
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